企業が競争力を保つために必要な2つの能力は、組織が有する特徴とも関連している。環境に合わせて事業を変革するダイナミック・ケイパビリティには柔軟性の高い組織が必要だ。もともと変革に向いている日本の組織が、働き方改革によって硬直化することを菊澤教授は危惧している。

<span class="fontBold fontSizeM">菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]</span><br>1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。(写真=竹井 俊晴)
菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]
1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。(写真=竹井 俊晴)

 戦後、日本は高度成長を成し遂げ、世界第2位の経済大国に躍り出ると、日米間には絶えず貿易摩擦問題が起こった。そして、しばしば米国によって厳しい条件が押し付けられてきた。繊維産業に始まり、自動車産業、そして半導体産業などがその攻撃の対象となった。

 にもかかわらず、この人為的でドラスチックな環境変化に、日本企業は絶えず適応し、柔軟に対応してきた。まさに、変化を感知し、そこに機会を捉えて、自己変革し、パラダイム(思考の枠組み)シフトするという形でダイナミック・ケイパビリティを発揮してきたのである。

 なぜ日本企業はこのような環境の変化に対応してパラダイム・シフトができたのか。それは、日本企業に固有の組織構造があったからである。恐らく、新型コロナ後も、人為的なビジネス環境の変化のみならず、自然災害なども多発し、ますます環境の変化が激しくなり、それに柔軟に適応することが日本企業に求められるだろう。

 ところが、近年、日本政府が進めている「働き方改革」は、これに逆行するものである。つまり、日本的な組織構造を変革し、欧米企業のような硬直的な組織への移行を要請しているのである。組織構造とダイナミック・ケイパビリティの関係、そして現在進められている働き方改革がどのような効果を日本企業にもたらすのか。以下、日米独組織の特徴を比較することで、その効果を明らかにしていきたい。

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