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真面目な日本企業が既存事業を懸命に磨いても、失敗してしまうのはなぜなのか。菊澤研宗教授は企業が持つ2つのケイパビリティ(能力)が持続的な強さの鍵だと説く。そのうちの1つである自己変革能力は、組織が保持している文化とも強く関連している。

菊澤研宗 教授[Kikuzawa Kenshu]
1957年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授などを経て、2006年から現職。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。現在、日本経営学会理事などを務める。(写真=竹井 俊晴)

 20年は突然、新型コロナウイルスの問題が発生し、今も多くの企業が危機的状況に追い込まれている。しかし、振り返ってみれば、近年、日本では毎年のように大雨、洪水、そして地震などが発生し、そのために主要な工場が操業停止に追い込まれるなど、多くの企業がその対応に苦慮してきた。

 このことを考慮すると、新型コロナ後のニューノーマルとは、ある意味で安定状態がノーマルではなく、異常事態がノーマルになるということでもあると思う。まさにVUCA(ブーカ)と呼ばれる不確実な時代が到来しているのだろう。VUCAとは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の略語であり、米軍がテロ対策に用いた用語だといわれている。

 このVUCAに対応できない企業はパラダイムの不条理に陥り、合理的に失敗することになる。このようなVUCA時代に、①環境変化を感知し(sensing)、②そこに機会を捕捉し(seizing)、③既存の資源を再構成して自己変容(transforming)する能力のことを、ダイナミック・ケイパビリティ(変化対応的な自己変革力)と呼ぶ。

 このような能力によって現代企業は持続的競争優位を得ることができると主張したのは、カリフォルニア大学バークレー校教授D・ティースであることは前回も触れた。今回は、彼の考えを理論的に整理していきたい。

目指すのは付加価値の向上

 ダイナミック・ケイパビリティ論の創始者であるティースによると、企業が保有するケイパビリティ(能力)には、オーディナリー・ケイパビリティ(オペレーション、管理、ガバナンスなどの通常能力)とダイナミック・ケイパビリティ(感知、捕捉、変容する変革能力)の2種類があるという。

 オーディナリー・ケイパビリティとは、既存の事業パラダイムの下、できるだけコストを削減して効率性を高める「技能適合力」のことである。これに対して、既存の事業パラダイムが環境と乖離(かいり)していないかどうかを批判的に検討し、現状を環境に適合させる、より高次の能力がダイナミック・ケイパビリティであり、「進化適合力」とも呼ばれる。

 これら2つの能力は「利益」と「付加価値」の違いにも対応する。下の図1を参照してほしい。オーディナリー・ケイパビリティは、既存の事業パラダイム内で利益(=売り上げ-費用)を最大化する能力であり、特に利益(効率性)を高めるためにコスト削減を行う能力である。

ダイナミック・ケイパビリティは付加価値を最大化する
●図1:利益と付加価値
日経ビジネス2021年1月18日号 72~75ページより目次