前回のテーマは日本企業や海外企業による海外展開の現状と成功事例だった。今回は、秦からモンゴル軍、日露戦争、米ソ冷戦まで、戦争がITを牽引(けんいん)した例について語る。

ORIENT(オリエント)
原義は「ローマから東の方向」。時代によりそれはメソポタミアやエジプト、トルコなど近東、東欧、東南アジアのことをさした。転じて「方向付ける」「重視する」「新しい状況に合わせる」の意味に。

(写真=吉成 大輔)
(写真=吉成 大輔)
三谷宏治氏 Koji Mitani
1964年、大阪府生まれ福井育ち。KIT虎ノ門大学院教授。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで経営コンサルタントとして活躍。92年INSEADでMBA修了。2006年から教育現場で活動する。『ビジネスモデル全史』『戦略読書〔増補版〕』ほか著書多数。
(写真=吉成 大輔)
(写真=吉成 大輔)
守屋 淳氏 Atsushi Moriya
1965年、東京都生まれ。作家、中国古典研究家。早稲田大学第一文学部卒業。『孫子』『論語』『三国志』や渋沢栄一などの知恵を現代にどう活かすかをテーマとする執筆や企業での研修、講演を行う。主な著書に『最高の戦略教科書 孫子』『現代語訳 論語と算盤』など。

三谷(以下、三):ITってなんでしょう。単に「情報技術」でなく、そこには3つの側面があります。第一はそこで使われる「技術」。手旗信号、有線、無線、4G、5Gといろいろなレベルのものがあるでしょう。次にそこで何が流れるのかという「コンテンツ」。最後が「用途」で、要するに何の役に立つのか、です。

 ITでは、これら3つが複雑に絡み合いながら進化してきています。用途(ニーズ)が先なときもあれば、技術(シーズ)が先のときもあります。過去、ITを引っ張ってきた最大の用途は戦争でしたが、他にも商売(含む金融)があり、そして交通がそうでした。

 今回は、ITと戦争がテーマです。

 FOCUS 
ヘディの秘密通信特許

(写真=Eliot Elisofon / Getty Images)
(写真=Eliot Elisofon / Getty Images)

 私はユダヤ系の両親の元で育った。父は銀行家、母はピアニスト。父と街を散歩するとき、街に点りはじめた街灯やバスの仕組みを、父に尋ねるのが大好きだった。でも女優にあこがれて努力し、18歳のとき『春の調べ』で主役をもらった。19歳で結婚した相手は14歳年上の裕福な武器商人。幽閉同然の生活を送らされたけど、よくビジネスの場に同席した。相手は科学者や軍事技術の専門家。そこでの会話はとても刺激的で、いろいろなことを学んだわ。武器のこと、そして無線技術のことも。

 夫と別れて米国に渡り、23歳でハリウッドデビュー。それから20年間は映画スターであったわね。でも戦争がはじまってある日、ナチスの潜水艦が子どもたちの疎開船を爆撃したと聞いた。でも通信妨害で対潜水艦の魚雷が当たらなくなっているとも。ユダヤ人でありアメリカ人でもある私は、なんとかしたいと思った。

 「妨害されにくい無線システム」のアイデアはピアノの連弾の中で生まれたわ。こうやって転調しながら弾いていけば……。発明は楽しいわ。だって美は永遠ではないけれど、技術は永遠だから。

 ヘディ・ラマー:ウィーン出身の女優・発明家。妨害電波に強い「周波数ホッピング」方式を考案し特許をとった。誕生日である11月9日は母国オーストリアやドイツなどで「発明家の日」とされている。

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