第1回対談は、成長のためには「標準化」が必須と指摘した。それは現代のIT基盤の在り方にもつながる。第2回はさらにイノベーションの歴史とその本質について三谷宏治氏と守屋淳氏が語り合っていく。

ORIENT(オリエント)
原義は「ローマから東の方向」。時代によりそれはメソポタミアやエジプト、トルコなど近東、東欧、東南アジアのことをさした。転じて「方向付ける」「重視する」「新しい状況に合わせる」の意味に

(写真=吉成 大輔)
Koji Mitani
1964年、大阪府生まれ福井育ち。KIT虎ノ門大学院教授。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで経営コンサルタントとして活躍。92年INSEADでMBA修了。2006年から教育現場で活動する。『経営戦略全史』『戦略読書〔増補版〕』ほか著書多数。
(写真=吉成 大輔)
Atsushi Moriya
1965年、東京都生まれ。作家、中国古典研究家。早稲田大学第一文学部卒業。『孫子』『論語』『三国志』や渋沢栄一などの知恵を現代にどう活かすかをテーマとする執筆や企業での研修、講演を行う。主な著書に『最高の戦略教科書 孫子』『現代語訳 論語と算盤』など。

革新は「担当者の変更」から

三谷(以下、三):「イノベーション」は21世紀を代表する経営テーマです。あらゆる企業や政府がそれを掲げていますが、日本は大きく立ち遅れていることが、今回の新型コロナウイルスへの対処でも明らかになりました。きっとまだ、その本質を理解していないのです。

 「イノベーション」を最初に論じたのは経済学者のシュンペーターだといわれています。彼は『経済発展の理論』(1912年)で「企業家の行う不断のイノベーションこそが経済成長の原動力である」と述べました。景気循環をイノベーションで説明しようとしたのです。そこで「イノベーションの類型化(5つ)」「金融機能の重要性」「企業家の役割」とともに「イノベーションの非連続性」を主張しました。

 イノベーションが起きるとそれまでの連続性が失われ「担当者の変更」が起きるというのです。彼は駅馬車から鉄道への転換をその例に挙げました。旧来、内陸地における都市間旅客交通の手段は駅馬車が主でした。しかしそれが鉄道に変化したとき、駅馬車事業者は1社も大手鉄道事業者にはなれませんでした。つまり「担当者の変更」が起こったのです。さらに後年、マッキンゼーのリチャード・フォスターは『イノベーション―限界突破の経営戦略』(1986年)で、真空管対トランジスタの事例を挙げイノベーションとは「プロダクトライフサイクル」*1と「担当者」の非連続だと論じました。自社の既存事業とのカニバリゼーションを恐れていたら、イノベーションなんて起こせません。イノベーションとはそれほど非情なものなのです。

 日本という国家のイノベーションであった明治維新もまさにそうでした。江戸時代というベースがあったからこその明治時代なのですが、自らが徳川幕府を倒したからこそできたことが多いのではないでしょうか。

*1==Product Life Cycle:新しい商品・サービスは黎明(れいめい)期・成長期・成熟期・衰退期をたどる、という考え方
 FOCUS 
エイブの決意

(写真=ユニフォトプレス)

 米国辺境の厳しい開拓生活の中で育ち、正式な教育は受けなかった。若い頃にはレスリングの賞金試合でごろつき集団の首領と死闘を演じ、その腕力と豪胆さで名を上げた。その後、独学で測量士になり、弁護士にもなった。五大湖に接するイリノイ州の州都スプリングフィールドに住み、弁舌に優れた有能な弁護士との評価を得た。人々は彼を「働き者エイブ」「正直者エイブ」と呼んだ。

 主なクライアントは運輸関係。特に鉄道会社と運河管理会社との訴訟が多かった。米国が開拓景気に沸く中、貨物輸送を担う両者は敵同士だった。そして1856年、運河を航行する蒸気ボートが鉄道橋に激突、沈没した。運河管理会社は即座にロックアイランド鉄道を訴えた。「運河に架かる鉄道橋は危険だ、取り壊せ!」

 ロックアイランド鉄道に雇われたエイブは、どう弁論すべきか考えていた。「過失や責任の所在を争うのもいいだろう」「しかしガバメント橋はミシシッピ川を横断する最初の鉄道橋だ」「大陸横断鉄道が東岸から西岸に伸びる中、この橋なくしてスプリングフィールドの、いや米国の発展はない!」

 国全体の繁栄を論じて鉄道会社に勝訴をもたらしたこの弁護士の名はエイブラハム・リンカーン。後の第16代米国大統領だ。彼は変革者として、貨物輸送手段としての運河に引導を渡す役も演じていた。

続きを読む 2/5 水戸学と明治維新

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