かつては「一流」と言われた日本の大企業、さらに官僚組織までもがなぜ失敗を繰り返すのか。今回は日本組織における儒教の影響を、名著『失敗の本質』からの学び、コロナ対策に至るまで、2人が論を展開します。
ORIENT(オリエント)
原義は「ローマから東の方向」。時代によりそれはメソポタミアやエジプト、トルコなど近東、東欧、東南アジアのことをさした。転じて「方向付ける」「重視する」「新しい状況に合わせる」の意味に。


三谷宏治氏(以下、三):人は誰しも、失敗するのも、それを振り返るのもキライです。今回はその本質を探ります。
守屋淳氏(以下、守):三谷さんの『経営戦略全史』に「米軍は失敗から学び、最終的にはイラク統治に成功した」との話がありますが、日本の組織は歴史的に同じ失敗を繰り返している気がします。いかがでしょうか?
三:米軍もまあ、何度も失敗してますけれどね。ただ野中郁次郎教授らによる『失敗の本質』では、日本軍の第2次世界大戦における失敗が経営的視点で分析されていて面白いです。この本ではまず、ミッドウェー海戦やインパール作戦*1など6つの大規模な作戦行動について、その経緯と失敗の原因が詳細に分析されています。次いで2章には「失敗の本質」として「戦略上の失敗要因」が5つ、「組織上の失敗要因」が4つ挙げられています(下の表を参照)。前者は、「そもそも戦略目的が曖昧で統一行動が取れない」から始まり、「意思決定が論理的でなく情緒や空気で決まる」「いつも奇襲戦法ばかりで戦略オプションが進化しない」などが指摘されています。
そして「組織上の失敗」では、「人的ネットワーク偏重の組織構造」や「評価が結果ではなくプロセスや動機でなされる」こと、などが書かれています。大規模な作戦が破滅的な結果で終わっても、責任者である司令官や作戦参謀レベルが一時期の左遷や転勤で済まされることが、ままありました。今の政府・官僚組織と同じですね。そして要職に復帰し次の大失敗を引き起こします。
結局、軍幹部全員が首相であった東條英機大将の「悪化した戦局を打開したい」との意向を「忖度(そんたく)」し、論理性ではなく「体面」や「人情」で意思決定や人事を行いました。これで戦いに勝てるわけがありません。
ドラッカーの悔恨

裕福なドイツ系ユダヤ人の家庭で生まれ育ったピーター・ドラッカーは、ナチスによる迫害を恐れて母国と職を捨て、1939年29歳でアメリカに移住した。3年後には大学教授となり、『産業人の未来(The Future of Industrial Man)』が出世作となった。
当時世界最大・最強と呼ばれた米ゼネラル・モーターズに招聘(しょうへい)され、会社組織の変革プランを依頼されたドラッカーは、1年半の調査後『会社という概念(Concept of the Corporation)』(46年)を書き上げた。そこにはGM組織の強さの秘密と同時に、その弱点「強さゆえの変化への拒絶」も指摘されていた。ドラッカーは繰り返し「変化対応こそがマネジメントだ」と説いたが、GM経営陣は「不変のマネジメント手法」を求めた。結局GMはこの本を禁書扱いし、彼の提言を無視した。
しかし、この本自体はGMの分権型経営の神髄を明らかにした著作として高い評価を受け、米GEや米フォード、トヨタ自動車など世界中の企業がその学習と実践に励んだ。一方、「より分権化すべし」というドラッカーの提言を無視したGMは、70年代には強敵となった日本企業に打ちのめされ、長い低迷を経験することになった。
ドラッカーは思った。「これがきっかけで社長のスローンとは仲よくなったし、アメリカ企業からの仕事も増えた」「しかし私はGM自体を救うことはできなかった」「あのとき、もっといいやり方があったのか……」
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