破綻寸前のネジ下請けの家業を航空宇宙分野にも通用する部品メーカーへと変貌させた。根っからの技術者が経営者の素養を身に付けた裏には伝説的ベンチャーの徹底教育があった。独特の強みを持つ中小企業を束ねた企業グループの形成に向けてひた走る。

<span class="fontBold">精密加工技術を知ってもらうために様々な試作品を展示会に出している。写真はロケットエンジン燃料噴射装置のサンプル</span>(写真=加藤 康)
精密加工技術を知ってもらうために様々な試作品を展示会に出している。写真はロケットエンジン燃料噴射装置のサンプル(写真=加藤 康)

 私は根っからの技術屋で、学生の頃から機械が好きでたまらないというタイプでした。そんな人間がなぜ経営者になって、破綻しかけた由紀精密を再建できたのか。あらためて考えてみると、大学院を出て2000年春に入社したインクス(現・SOLIZE)での経験が大きく影響しています。

 インクスは、大手金属メーカーの技術者だった山田眞次郎さんが米国で当時先進的だった3Dプリンターの造形技術を知り、「早く導入しないと日本は負ける」と衝撃を受け、1990年に創業したという企業です。3次元CAD(コンピューターによる設計)のデータから、図面を介さずに短期間で金型を設計・製造できるシステムを94年に開発し、一躍注目を集めました。技術系ベンチャーの先駆的な存在だったと思います。

 注目され始めた時期とはいえ、そのインクスに入社することを決めた時には周囲から「なぜ」と驚かれたものです。当時は理系から外資系金融やコンサルティング会社に行くのがはやっていて、私の出身校(東京大学)からも結構な数の学生が行っていました。大手メーカーに進む人ばかりではなくなっていたのですが、就職先としてベンチャーを選ぶ人はまだ少なかった。

「世界最高速の金型をつくれ」

 学部の頃に光造形の研究をしていた私は、関係学会に行った時にインクスが出展しているのをよく見かけました。とにかく、やっていることがすごく面白そうだったんです。

 当時は設計に3次元CADが広く使われるようになっていたのですが、いざ製造する段になると紙の図面に翻訳しなければならなかった。「こういう材料を使って、こう加工して」というのを工程表や図面の中の大量の言語情報で伝えていたのです。インクスはそれを省略して、データだけで一気にやろうとしていた。これからのものづくりはこうなっていくんだろうなと感動して、入社を決めたのです。

 入社したら、いきなり「世界最高速で成形品をつくれる金型をつくれ」と命じられました。金型というのは、樹脂などを吹き込んで部品などをつくる、いわば型枠です。その金型を使って成形品を製造するスピードを世界一にしろというわけです。当然、金型自体も高速で設計・製造する必要があります。当時の私は入社直後で素人同然。大きな仕事を与えられたという喜びを感じる余裕はまだありませんでした。

 山田さんという人は、技術に極めて詳しいし、市場の動きへの洞察力も非常に深いので、飛び抜けた命令をしても、的外れではないんです。付いていこうと思えるカリスマ的な引っ張り方をする人でした。

続きを読む 2/3 金型のことは何も知らなかった

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