入社以来、営業一筋。典型的な営業員だが、デジタル化に早くから取り組んだ。業務の効率化がコスト競争力を生み、市場が自由化された際には最大の強みになった。情報システムを業界のプラットフォームにする事業にまで乗り出している。

和田眞治[わだ・しんじ]氏 
和田眞治[わだ・しんじ]氏 
日本瓦斯会長。1952年島根県生まれ。成城大学経済学部卒業。77年日本瓦斯入社。入社5年目に北関東支店の課長に。当時、最も早い昇進だった。92年本社営業本部地区開発課長、96年西関東支店長。97年取締役に就任し、2000年常務、04年専務を経て05年に社長就任。22年5月、会長就任。(写真=大下 美紀)

システムは現場で使えなければ意味がない

 「こんなんじゃダメだ」──。

 1995年頃、私は社内でしばしばこんな声を上げていました。何に怒っていたかというと、仕事があまりに非効率だと思ったからです。私は77年の入社以来、営業一筋でやってきました。LP(液化石油)ガスの営業は、新築の家に直接か、住宅団地などの開発業者や施設業者などに売り込むのが中心でした。当然、見積書やプレゼン資料を作らないといけない。

 ところが、当時、当社が入れていたオフィスコンピューター(オフコン)は、硬直的でデータを好きなように取り出すことも加工することもできない。プレゼン資料一つも、自分でデータを集めて作らないといけないのです。昼間は営業で足を棒にして歩き回っているのに、事務所に戻るとこの膨大な作業。正直、腹が立ってなりませんでした。そうしたら本社営業部長から西関東支店の支店長になる頃、子会社で情報システムを扱うニチガス物流計算センターの社長の兼務を命じられました。

 文句ばかり言っているから「おまえやってみろ」ということだったのでしょう。それにしても営業一筋の私がなぜコンピューターにこだわり続けたのか。不思議に思われるでしょう。一つには仕事の量がものすごかったからです。実を言えば、経営者としての今日はこの時代の経験が基になっています。

営業一筋からシステム改革に

 ここ数年、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞かない日はないほど、デジタル化による経営革新が注目されていますね。当社はデジタル化ということに30年近く取り組んできて、今年6月には経済産業省と東京証券取引所などによる「DX銘柄2022」のグランプリに選ばれました。デジタル技術を使ってLPガスの効率的な配送をしていることが評価されたようです。このDXの原点がこれまでお話ししたかつての仕事の非効率さにあったのです。

 当社は1955年の設立で、もともとLPガスの販売から始まり、現在は首都圏を中心にしたLPガスと都市ガス、そして電力小売りまで手掛けています。LPガス会社といえば、ボンベを個人宅や事業所に配送して、ガスがなくなると取り換える。そんなイメージでしょうし、約2万社といわれる業界も中小企業が多い。そんな会社がDXかと思うでしょう。