株価が伸び悩む中、株主だけでなく社会や従業員を重視する「公益資本主義」の考え方に出合う。経営者として人事に向き合ってこなかった反省から人事部長も兼務した。社員一人ひとりが主体的に働き、それが会社の成長に結びつく状態を追い求める。

田中邦裕 [たなか・くにひろ]
1978年大阪府生まれ。舞鶴工業高等専門学校4年生だった96年にさくらインターネットを創業し、98年に会社設立。2000年に他の役員との意見の相違から社長を辞任し、副社長に就く。05年の東証マザーズ上場後、債務超過に陥った07年に社長復帰。顧客と従業員のための経営を志す。20年から沖縄県に移住しリモート前提の働き方に転換。(写真=的野 弘路)

 徹底的にコストを削減してきた内向きの経営から脱しようと大型データセンターの建設を決断した後も、人材の流出は止まりませんでした。社内の雰囲気は多少前向きなものに変わってきたのですが、業績は頭打ちの状況が続き、株価も相変わらず上がりません。経営者として「なぜ業績が伸びないのか」「なぜ株価が上がらないのか」と思い悩む日々が続きました。

 そんな私を変えたのが内閣府参与の原丈人さんの言葉でした。2014年にベンチャー経営者10人ほどが集まって、「公益資本主義」を提唱している原さんを囲む勉強会を開いたのです。「株主資本主義」の重要性が声高に叫ばれていた時期です。私自身も、社会、従業員、顧客、株主というステークホルダーのうち、株主を重視し、株価を強く意識した経営をしていました。

 「会社が株主だけでなく社会の公益性のために貢献すると、中長期で社会が良くなり会社も大きく成長する。だから、社会のことをもっと重視したほうが、最終的には株主も得をするんです」。株主が最優先という考え方にどこかで疑問を持っていた私は、原さんの言葉を聞いて「これだ!」と膝を打ちました。サイボウズの青野慶久社長など、同席していたベンチャー経営者の多くも「やっぱりそうだよね」と原さんの言葉に深くうなずいていました。

 公益資本主義は、株主だけでなく、社会や従業員、顧客を同等に意識する考え方です。その中で、我々がもっと大切にしなければならないと思ったのが従業員でした。私はエンジニア出身ということもあり、社長に復帰してからもレンタルサーバー事業を中心とするサービスの内容には注意を払っていました。でも、どうしたらもっと社員が働きやすい会社にできるかといったことはほとんど気にしてこなかった。人材の流出が止まらなかったのも、社長である私が社員一人ひとりに関心を持っていないことを見透かされていたからだと思い至りました。

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