5つ星でも3つ星でもない「宿泊特化型なのにラグジュアリー」な4つ星ホテルを全国に展開する。新型コロナウイルス禍で苦境に陥り、盤石と信じていた財務体制は歴史的厄災の前に瓦解した。「社員を守り抜く決意」で試練を克服。その信念はある経営者から受けた薫陶が基礎となっている。

穂積輝明[ほづみ・てるあき]氏
穂積輝明[ほづみ・てるあき]氏
カンデオ・ホスピタリティ・マネジメント会長兼社長 1972年生まれ。京都大学3回生のときに不動産デベロッパー「スペースデザイン」でアルバイトを開始。正社員を経て、不動産ファンド「クリード」に転職し、ホテル事業を立ち上げて社長に就任。2012年にMBOでオーナー経営者として独立。現在、宿泊特化型でありながらラグジュアリーな4つ星ホテル「カンデオホテルズ」を25施設、4903室運営している(写真=的野 弘路)

「全員の雇用は守ります」 コロナ禍で全社員にメール

 1日に2000万円が溶けていく──。未経験の事態を前にした私の心は、ただただ恐怖でいっぱいでした。

 2005年、私は「カンデオホテルズ」を創業しました。5つ星のシティーホテルでも、3つ星のビジネスホテルでもない。ラグジュアリーでありながら宿泊に特化した“4つ星ホテル”を全国に約20施設、4000室超展開しています。ところが新型コロナウイルス禍により、20年4月は単月で6億円の赤字を出したのです。

 それまで、好調なインバウンド(訪日外国人)需要を背景に、平均月商は12億円。月に2億円の利益を上げていました。それが一転、売り上げが10分の1に落ち込んだ。一方、人件費や建物の賃料といった固定費はどんどんかさんでいきました。

 有事を見据えて財務基盤を強化してきたつもりでした。年商142億円に対して実質無借金。さらにグループ全体で60億円の現預金を持っており、かなり盤石だと考えていたのです。売上高3割減が3年続いても耐えられる財務状態にすべく、現預金を積み増してきたからです。

 しかし現実は想定を超えていました。60億円の現預金も、月6億円の赤字ならたった10カ月の命です。

 不安だったのは私だけではありません。現場の社員も動揺していました。「アルバイトが全員解雇」「契約社員は雇い止めだ」「残った正社員も減給になった」など、同業他社の状況が漏れ伝わってきていたからです。

 自分は、何のためにこの会社を経営してきたのだろうか──。私は原点を振り返り、一番苦しかった20年4月に全社員に向けてメールを送りました。「全員の雇用は守ります」と。

 「会社は誰のものか」という問いがあります。経営者によって「株主」「顧客」など答えはバラバラですが、私は「従業員だ」と考えてきました。であるならば、仲間である従業員は守り抜かなければなりません。

次ページ 前向きになるスイッチを入れた