高級な料亭や航空機のファーストクラスなどで世界のVIPに人気を博すようになった日本酒「十四代」。高木酒造には十四代の他にも、カジュアルに飲める銘柄もある。ただ、当初は流通に四苦八苦した。日本酒を世界に雄飛させる。いつか継ぐ「辰五郎」の名に恥じぬよう、高木社長は今日も修業に励む。

高木顕統[たかぎ・あきつな]氏
高木顕統[たかぎ・あきつな]氏
1968年山形県生まれ。東京農業大学醸造学科(現醸造科学科)卒業、東京の高級スーパーでバイヤーに。家業の高木酒造で杜氏が引退し、江戸時代初期から続く蔵がピンチに。同時期に「運命的な一杯」の酒と出合い、帰郷して酒造りを担う。銘酒「十四代」で「芳醇(ほうじゅん)旨口」の時代を切り開き、2015年から社長。(写真=伊藤 菜々子)

 「手ごろな価格帯のお酒も、最高の品質で勝負したい」

 蔵の冷蔵スペースに積まれた一升瓶のケースを見上げ、私は考えていました。家業の酒造りを継いでから、やっとの思いで東京への販路を築き始めた1995年のことです。自分で手掛けた日本酒のラインアップの中で、売れ筋の銘柄ができつつあったのはうれしかった。ただ、味わいに自信があっても、純米酒や吟醸酒の陰に隠れていた商品もあったのです。

 実はそのお酒こそ、私が経営の根幹に位置づけた「本丸」という銘柄です。城の中で、二の丸でも三の丸でもなく、決して攻め落とされてはならない中核という意味を込めました。このお酒が世間に理解されず崩れてしまったら、蔵もろとも倒れてしまう。その意気込みがあったのです。

 ところが、時代は吟醸ブームでした。日本酒は国税庁の基準により「特定名称酒」というスペックで分けられています。例えば、原料のお米をより多く磨き、精米歩合(精米後に残ったお米の重量比)が50%以下なら、大吟醸となります。もちろん当社の吟醸や大吟醸も酒米の選定から精米、麹(こうじ)づくり、発酵まで丁寧に仕込んだ自信作です。

 ただ、「本丸」はあえて精米歩合が60%で、当社秘伝の技、「玉返し」で仕込んだ「特別本醸造」というスペックにしました。吟醸より単価を抑えた銘柄もおいしく仕上げ、気軽に飲んでいただく機会も提供したいと思っていたからです。東京の百貨店系スーパーで酒類のバイヤーをしていたころ、そこまで高額でない贈答品の需要があると目にしていました。ちょっとしたお礼などで、「2000円前後のお酒を持っていきたいんだけど」とお声掛けいただいたものです。肩肘を張らずに感謝を伝えられるお酒が必要だと感じていました。

 本丸は飲んだときのまろやかさとキレを両立させるべく、試行錯誤を重ねた労作。それでも吟醸ではない分類だと、いかに取り扱ってもらうかで苦悩することとなりました。

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