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既存店売上高が2割減った2014年、あえて従業員の給与を平均10%引き上げると決断した。50万本もの眼鏡の在庫を焼却処分するという無念もあった。すべては持続的に成長できる「志のある会社」になるために。

田中 仁[たなか・ひとし]氏
1963年前橋市生まれ。信用金庫勤務などを経て88年ジェイアイエヌ(現ジンズホールディングス)を設立。エプロンやバッグなどの雑貨事業を手掛けていた2001年に「JINS天神店」を福岡市にオープンしアイウエア事業に進出。06年大証ヘラクレス(現ジャスダック)上場、13年東証1部上場。慶応義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程修了。(写真=竹井 俊晴)

 5年間で店舗数が5倍近くも増えるという規模の拡大に従業員の教育が追い付いていなかったと分かってからは、教育体制の整備に駆け回る日々でした。あらためて振り返ると、全社的なサービスの基準や業務マニュアルもつくっておらず、それぞれの店舗でのOJTに頼っていた部分が多かったのです。

 研修を担当する部署を通じて、従業員がジンズの事業をどれだけ理解しているかを調べてみました。「どうして追加料金がゼロ円なのか」「どうして注文を受けたその日に商品をお渡しできるのか」を聞いたのです。すると、我々の強みだとは分かっていても、理由まではきちんと理解していない従業員が多かった。お客様が来てくれることを当然だと思っているような従業員も少なからずいました。

 これでは、継続的に成長できない「志のない会社」に戻ってしまう。ビジョンを会社の隅々まで浸透させるために、従業員の教育やスキルアップの仕組みを抜本的に変えようと決断しました。

 店舗の従業員については、それまで明確にしていなかったスキルを4階層に分けました。「自分に何が足りないのかよく分からない」。こんな声が上がっていたからです。階層ごとにチェック項目を設けて、店舗や本部での試験で達成していると確認できれば階層が上がって給料も増えるという仕組みにしました。店舗ごとのばらつきがないように全社共通の教材もつくりました。

「今後ずっと膨らむ費用ですよ」

 とはいえ、仕組みだけつくって「さあ、スキルアップを目指せ」と檄(げき)を飛ばしても、一気には変わりませんよね。我々のビジョンの達成のために従業員の力は欠かせません。それを経営者としてどう伝えるかが課題でした。