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LINEの経営トップを退任し、48歳で動画メディアのC Channelを創業した。女性をターゲットに支持を拡大し、創業から5年で上場を果たした。安定を捨ててまで起業を選んだ裏にある信念とは。

(写真=的野 弘路)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く5月25日、私が経営トップを務めるC Channelは東京証券取引所に上場を果たしました。創業から5年、道半ばですがようやくスタートラインに立てたと感じています。

 うまくいったこともある一方で、誤算や予想していなかった苦労もたくさんありました。7年半ほど務めた「LINE」運営会社の経営トップとはまったく違う立場になり、環境の違いに驚くこともありました。それでも続けてこられたのは、日本発のコンテンツで世界に打って出たいという夢を持ち続けていたからです。

 今回の上場でも曲折がありました。東京証券取引所のマザーズ市場への上場を目指していた我々は、厳しい現実に突き当たりました。証券会社のアドバイザーから下されたのは「このままでは早期の上場は難しい」という結論だったのです。

 我々の主力事業は女性に特化した動画メディア「C CHANNEL」です。タレントや読者モデルなどのインフルエンサーの動画を中心に発信しています。ファッションやメーク、料理などの動画が支持され、SNS(交流サイト)の公式アカウントのフォロワー数は国内外で延べ3830万人(5月末時点)に達しました。全社の売上高は2020年3月期に74億円です。とはいえ、最終損益は17億円の赤字。まだ国内外での成長投資が先行する段階です。

 この1年ほどは(米シェアオフィス大手ウィーワー クの運営会社ウィーカンパニーの経営悪化が判明した影響などで)スタートアップを取り巻く環境が一変しました。市場関係者が成長性よりも利益を重視するようになり、黒字でなければマザーズに上場するのは難しくなってしまった。

 では、利益重視の経営に転換して上場を先送りするか。そういうわけにはいきませんでした。とにかく早く会社を次の成長ステージに持ち上げたい、女性向けメディアとして一定の認知度を得たC CHANNELを生かしたビジネスをどんどん展開したい。そんな、いてもたってもいられない気持ちだったのです。世界の競合企業も我々のことを待ってくれないでしょう。

 上場はゴールではありません。必要なのは、資金を確保して人材確保やマーケティングなどの成長投資に回すことです。それならば、市場はどこでも構わない。だからマザーズではなく、あまりなじみのないプロ投資家向けの市場「TOKYO PRO Market」を選んだのです。「名」より「実」。私のキャリアを振り返ると、いつもそうだったかもしれません。

日経ビジネス2020年8月3日号 70~73ページより目次