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日本IBMから独立した後、パソコン用ソフトを販売するソースネクストを創業。ソフトの低価格化で一世を風靡し、今では自動翻訳機が事業の屋台骨になった。経営危機を糧にしてきた起業家は、新型コロナウイルス禍を乗り越えられるか。

(写真=的野 弘路)

 1つの山を越えなければならない状況に差し掛かっています。無論、新型コロナウイルスの感染拡大という想定外の事態を受けてのことです。

 私が創業したソースネクストはパソコン用のソフトの販売から事業を始め、近年はおかげさまで自動翻訳機「ポケトーク」がヒットしました。2020年3月期には、17年に発売したポケトークが売上高の半分を占めるまでに成長。19年末には最新機種を投入してさらに販売を増やそうともくろんでいました。その矢先に新型コロナです。

 訪日外国人向けのビジネスを手掛ける人や、旅行や出張で海外に行く人を主なターゲットにしてきましたが、その需要が急激にしぼんでしまった。発売以来、順調にきたポケトークにとって大きな試練です。

 でも、まったく悲観していません。ポケトーク購入者へのアンケートでは、4割近くが「勉強のために購入した」と答えているのです。観光での需要が落ちたのであれば、「語学学習」を売りにしていけばいい。量販店での販売はさすがに減りましたが、当社のEC(電子商取引)サイトでの販売台数はほとんど変わっていません。

 実は新型コロナの影響が大きかった3~5月の3カ月間で、ソースネクストの創業以来、最大の投資をしました。会議室用のウェブカメラを手掛ける米オウルラボ(Owl Labs)に500万ドル(約5億3500万円)、空気清浄機を開発する米モレキュール(Molekule)に1000万ドル(約10億7000万円)をそれぞれ出資しました。これまでに最も大きかった投資が17年に筆まめ(東京・港)を買収したときの約8億円でしたから、短期間でこれだけの投資をしたのは異例と言えます。

 大きな変化が起きたときほど色々なビジネスチャンスが出てきます。ここしばらくは利益を出し続けてきたので、それなりの内部留保もあった。それなら逆に攻めに出ようと考えたのです。

 最大の投資をしただけでなく、私個人としても仕事の生産性がこれまでで最も高い時期だったかもしれません。会食もなく、集中して他社との交渉を進められました。この夏以降に花を咲かせる製品の種をたくさん植えることができました。

日経ビジネス2020年6月29日号 70~73ページより目次