脳内に蓄積するアミロイドβ(Aβ)を取り除くワクチンや抗体医薬開発では、多くの会社が失敗を重ねた。各社ともMRI画像に異常が現れる副作用を避けようと慎重を期したため、有効な結果を示せなかった。2007年にJ-ADNIを立ち上げた岩坪教授は、これら相次ぐ創薬の失敗をどのように見ていたのか。

治療薬開発に関わるようになったのは、2007年にJ-ADNIを開始したあたりからです。その頃までにアルツハイマー病の症状を抑えるのではなく、疾患の根本メカニズムに働きかけて進行を抑える「疾患修飾薬」の開発はいくつか始まっていました。
最終段階の大規模臨床試験である第3相試験がまず本格的に行われたのはγセクレターゼの阻害薬です。僕らの研究室ではγセクレターゼがどのようにして働くかを突き止めていました。アミロイド前駆体たんぱく質(APP)を切断してアミロイドβ(Aβ)をつくり出すこの酵素を働かなくして、Aβを減らす創薬には、いくつかの会社が取り組みましたが、第3相試験まで進んだのは米イーライ・リリーの薬でした。ただ、有効性が確認できず、10年に開発は中止されてしまいました。
エーザイのレカネマブはAβに結合する抗Aβ抗体ですが、当初はAβをワクチンのように投与して、体内で抗体を作らせてAβを取り除くことも試みられました。米アセナ・ニューロサイエンスというスタートアップにいた研究者、デール・シェンク氏が発案したもので、動物実験で脳内のAβを減らし、神経症状も改善できたと1999年にネイチャー誌に発表して大いに注目されました。
彼は、残念ながら2016年に膵臓(すいぞう)がんで亡くなりましたが、存命中にAβを標的としたアルツハイマー病治療がノーベル賞の対象となることがあったなら、真っ先に名前が挙がったはずの人物です。
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