さまざまな工夫によって製品は完成したものの販路開拓は進まず、ほとんど売れない日々が続いた。何とか突破口を開こうと、米ビジネススクール著名教授の言葉からヒントを得て、ブランドづくりに着手。地道な努力を積み重ねていたある日、多くの人にエアウィーヴを知ってもらえる“追い風”が吹いた。

高岡本州 [たかおか・もとくに]
高岡本州 [たかおか・もとくに]
1960年名古屋市生まれ。名古屋大学工学部応用物理学科卒、慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士課程(MBA)修了後、父が経営する日本高圧電気に入社。87年米スタンフォード大学大学院修士課程修了。98年日本高圧電気社長(現在は取締役)に就任。2004年に伯父から中部化学機械製作所(現エアウィーヴ)の経営を引き継ぐ。(写真=栗原 克己)

 2007年6月、ベッドや布団の上に敷くマットレスパッド「エアウィーヴ」を発売しました。薄く軽いパッドから始めた理由は売り場で扱ってもらいやすいため。物流が容易であることも理由の一つでした。大きなマットレスは相応のロジスティクスが必要で、最初から整えるのが難しいと思ったのです。

 売上高が数十億円規模になれば事業が軌道に乗ると思いましたが、簡単ではなかった。家具店は既存業者が売り場を囲っており、パッドですら売り場を確保できないのです。1週間で1枚売れれば御の字という状況が続きました。

 「体験すれば良さが分かる」。そう考えた私は、約200人の友人・知人に無料で商品を配りました。狙いは当たり、一晩使っただけで「すごくいい」と褒めてくれる人たちが出てきた。共通点は「スポーツマン」。体調に敏感な人々の評判が良かった。彼らの評価は私に自信を与えてくれました。

 覚えているのは、あるご夫婦の言葉です。スポーツマンのご主人は使った翌日に「これはいい」と連絡をくれた。奥さんは当初「よく分からない」との反応でした。しかし1週間後、奥さんも「週末に長時間使ったときに寝疲れしていなかった」と言ってくれたのです。「どんな人も1週間使えば良さが分かる」と思いました。

 半面、この結果は売り場で試すだけでは良さを伝えるのが難しいことを意味します。私は販売戦略を練り直しました。当時の寝具はプッシュ型の販売が主体。見込み客には値引きでプッシュした。寝具は購入の意向がある顧客が来店する。その場で買ってもらえなければ別の店に行ってしまうので、ディスカウントが家具店の販売戦略となっていた。機能より値引きで商品が選ばれたのです。

 父から引き継いだ日本高圧電気では品質を強みにしていた。だからこそ、従来の寝具の販売手法と一線を引きたかった。そのヒントをとある米国出張で得ました。米ハーバードビジネススクールでブランディングなどを教えるジョン・デイトン教授と話す機会を得たのです。

 デイトン教授は「寝具を買う場合、店頭で実際に触れて次に価格が想定内かを見る。ブランドは最後に見るが、知らないブランドは買わない」と教えてくれました。最後にはブランドがモノをいう以上、「ブランド認知を高め、顧客から指名してもらうプル型のマーケティングでいこう」と決心しました。