商品開発型企業をうたうキングジム。そのルーツは“偉大なる発明家”だった創業者の気質にあった。「10回に1回当たれば十分」という打率1割の考え方が、失敗を恐れず挑戦する社員を生む秘訣という。その考えが信念となったのは、いつも企画を通せなかったダメ社員が放った一打に目が覚めたからだった。

宮本彰 [みやもと・あきら]氏
宮本彰 [みやもと・あきら]氏
1954年東京都生まれ。77年慶応義塾大学法学部卒業後、祖父が創業したキングジムに入社。88年発売のラベルライター「テプラ」では開発チームのリーダーとして活躍。大ヒットを経て92年の社長就任後は「テプラ社長」と呼ばれた。趣味は小学生から続けている魚釣り。カメや野鳥といった生物のほか、バラの栽培なども好む。(写真=的野 弘路)

 20年ほど前に釣り仲間から教わって以来、私は「ファーストペンギン」という言葉を社内外でよく使うようになりました。釣果が乏しいときには色々と工夫をして、オリジナルの釣り餌をつくるのが好きでした。それで入れ食いになった経験もあるんですよ。「最初の挑戦者になって、先行者利益を得る」という私のファーストペンギン気質は、実は趣味の釣りに由来しているんですね。

 当時は人口に膾炙(かいしゃ)した言葉ではありませんでしたが、「商品開発型企業」をうたう当社にぴったりだと思い、積極的に使うようになりました。背景にはキングジム創業者で祖父・宮本英太郎の存在があります。自称「偉大なる発明家」。偏屈で頑固者だけど、世の中にないものを生み出すことにたけた人でした。

 祖父は潜在ニーズを読んで特許人名簿や印鑑簿などを開発し、「世界共通語をつくるんだ!」という壮大なアイデアも持っていましたね。キングジムはそのDNAを代々受け継いできた。私は社員に「失敗を恐れるな」と言い続けています。

 ファーストペンギンである以上、ハズレが多くても仕方がありません。既存品の改良はヒットの確率が高くなるかもしれません。一方、未知の製品はニーズそのものを創出する覚悟が必要です。「売れるかもしれない」といった直感は当てにならない。むしろ社内では「社長が売れると言った製品は大抵売れないよね」という悲しい神話があるほどです(笑)。

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