シリーズ
Exit

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小説・Exit 第31回「リフレ派」
「しっかし、動かねえな」舌打ちした堀田がラジオのスイッチに手をかけた。〈都内の中心部では、大規模な工事が何箇所かあり、これに伴う激しい渋滞が……〉池内が女性アナウンサーの声に耳を凝らすと、目の前の工事現場の名が告げられた…
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小説・Exit 第30回「渋滞」
日比谷の地下駐車場を出た高級セダンは、内堀通りを大手町方向へと走り出した。古賀は右隣の磯田の顔を一瞥した。老練な政治家は顔をしかめたまま、葉巻をふかす。薄く開いた窓から、紫煙が夜の街へと吸い込まれていく。ヘッドレスト脇に…
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小説・Exit 第29回「追跡」
〈ちょっと待ってくださいよ〉薄い障子戸を隔てて、廊下の隅から池内のくぐもった声が聞こえる。1人になった小さな座敷で古賀は緑茶を飲み干した。ほんの1分前、池内に電話が入った。覗くつもりは毛頭なかったが、スマホのディスプレー…
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小説・Exit 第28回「躊躇(ためら)い」
地下1階の社員食堂で池内が日替わりの唐揚げ定食を食べ始めたとき、長テーブルに小松と新時代の高津がそれぞれトレイを持って現れた。
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小説・Exit 第27回「第2弾」
仕事らしい仕事をまったくこなせないまま、言論構想社の看板月刊誌「言論構想」新年号が昨夜、校了した。編集長の小松が責了印を押した直後、副編集長の布施や3人のデスク、出入りするライターやカメラマンが相次いで早朝まで営業する居…
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小説・Exit 第26回「メディア・リテラシー」
神保町の事務所で主要紙の記事をスクラップしたあと、古賀は応接セット近くにある液晶テレビの電源を入れた。時刻は午前9時10分、公共放送NHRは朝の情報番組でドメスティックバイオレンスの特集を放映中で、古賀はチャンネルを切り…
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小説・Exit 第25回「掃除屋」
「作業を中断させてしまって申し訳ない」会議室の対面の席で、編集長の小松が切り出した。「いえ、急ぎの記事ではありませんから」池内が答えると、小松がゆっくり頷いた。小松の前には煤けたスクラップブックと手帳がある。教師に隠し事…
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小説・Exit 第24回「暗躍」
池内が帰った直後、古賀はノートパソコンでネット検索を始めた。〈日銀 不倫 スキャンダル〉思いついたキーワードを入れ、エンターキーを押す。
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小説・Exit 第23回「生き残る術」
月刊誌記者の池内貴弘は、自殺したかつての女友達、千葉朱美の自殺に、友人で酒問屋を営む勝木真一が絡んでいることに気づく。金融コンサルタントの古賀遼は、日銀の副総裁と局長秘書が不倫関係にあるというスキャンダルを知る。2人の関…
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小説・Exit 第22回「スキャンダル」
帰宅を急ぐ勤め人や学生たちで混み合う中央線の車両で黒崎と別れ、池内は吉祥寺駅の北口から私立学園近くにある叔母の家へと駆けた。アーケード街から叔母に電話を入れたが、勝木が現れた様子はなかった。もちろん、仙台の親友は依然とし…
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小説・Exit 第21回「敵(かたき)」
「生ビール2つ、それからガメ煮と一口餃子をそれぞれ2人前ね」前掛け姿の店員に向け、黒崎がぶっきら棒に言い放った。店内には豚骨スープを炊く香りが漂う。
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小説・Exit 第20回「AI(人工知能)」
「それでは4億円、たしかに」 古賀の目の前にいる男が、恭しく頭を下げた。男の手元には艶のある革製のバインダーがあり、中には古賀がサインしたばかりの書類が挟まっている。
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小説・Exit 第19回「モラトリアム法」
「それでは、昼過ぎにお邪魔いたします」電話を切ったあと、古賀はホルダーに入れた名刺に目をやった。
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小説・Exit 第18回「コールプランニング」
自宅マンションのある江戸川橋駅から東京メトロ有楽町線に乗り、古賀は市ケ谷駅で都営地下鉄新宿線に乗り換えた。電車が市ケ谷を発った直後、背広の中でスマホが振動した。
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小説・Exit 第17回「ノー・イグジット」
「ゲラのチェック、早くしてくれよ。普段より締め切りが早いからな」編集部で副編集長の布施が電話の相手に怒鳴り始めた。池内は顔をしかめた。昨夜、中目黒で河田と未明まで話し込んだ。痛飲したわけではないが、偏頭痛がひどい。もっと…
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小説・Exit 第16回「厚化粧の理由」
「ここだ」地下1階の壁の前で、河田が告げた。「なにがあるんですか?」薄暗い地下スペースで池内は目を凝らし、周囲を見回した。看板も電飾もない場所で、河田は壁に設置されたステンレスの蓋を開けた。
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小説・Exit 第15回「信用リスク」
3杯目の前割りを飲み、河田が言葉を継いだ。どの程度の強さの酒かわからないが、酔った様子はない。むしろ両目が醒め、形相が凄みを増している。「アメリカで突発的なことが起きた。いや、今後、恒常的になるかもしれない」池内が突発的…
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小説・Exit 第14回「銀行も破綻する」
「そろそろマエワリを頼むとするか」3杯目のビールをあっという間に飲み干した河田が、空のジョッキをテーブルに置いた。「マエワリ?」池内は壁に貼られたメニューの短冊に目を凝らした。プレミアム揃いという薩摩焼酎にマエワリという…
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小説・Exit 第13回「消えた公定歩合」
「今どきの記者さんは、すぐにスマホで検索するんだろ?」河田が皮肉めいた調子で言った直後、池内はスマホを慌ててテーブル下に隠す。「別に怒ってないよ。日本、政策金利、推移で検索かけてみな」言われた通り、フリック入力でキーワー…
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小説・Exit 第12回「米国からの警鐘」
午後7時32分、約束の時刻を2分過ぎた。左手のデジタル時計に目をやったあと、古賀は100メートル先にある薄明かりを見つめた。