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前回までのあらすじ

 仙台あけぼの銀行の千葉朱美の自殺をきっかけに、地方銀行の実態を調べ始めた池内貴弘に、旧知のジャーナリストの河田雄二は、日本の金利が異様な状況にある、と示唆する。

 金融コンサルタントの古賀遼は、アルゼンチンに端を発する金融危機が、米国、そして日本に及ぶことを危惧する。

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(11)

「そろそろマエワリを頼むとするか」

 3杯目のビールをあっという間に飲み干した河田が、空のジョッキをテーブルに置いた。

「マエワリ?」

 池内は壁に貼られたメニューの短冊に目を凝らした。プレミアム揃いという薩摩焼酎にマエワリという銘柄はない。

「前の日から冷水で割った焼酎のことだ。前の日から割るから前割り、まろやかな味に変化して、いくらでも飲める厄介なシロモノだ」

 厄介と言いつつ、河田が目尻を下げた。社内でなんども目にした本物の酒飲みの目つきと口元の緩み方だ。

「いつもの前割りお願い!」

 河田は空いたジョッキを厨房に向けた。

「レク代ですから、お好きなだけどうぞ」

「言われなくてもそうする」

 河田は黒豚の角煮や自家製さつま揚げなど肴をいくつも追加し、姿勢を正した。

「短期の話だったな」

「どの程度の期間かというところでした」

「金融の世界で短期とは1年未満の期間を指す」

「決まっているのですか?」

「そうだ。元来、日銀がコントロールしてきたのが短期の金融市場だ」

「コントロールとは?」

「日銀が銀行の銀行だということは知っているか?」

「民間銀行に資金を融通するのが中央銀行だと学校で習った覚えがあります」

 池内が答えると、河田が頷いた。

「大まかに日銀と民間銀行の立ち位置、それに短期金融市場の仕組みを教えてやる」

 河田がそう告げたとき、アルバイト店員が大振りのロックグラスを河田の前に置いた。

日経ビジネス2020年1月13日号 64~67ページより目次