自殺した仙台あけぼの銀行の千葉朱美は東京で、高リスクの金融商品の処理に長けた金融コンサルタント、古賀遼に会っていた。古賀はその能力を買われ、首相の芦原恒三からも頼られていた。就任前、芦原は、景気刺激のため、日本銀行の独立性を脅かす政策を進めると宣言。古賀は危惧していた。
(5)

上りの新幹線の時間まであと2時間。池内は腕時計に目をやったあと、対面に座る同世代の男に顔を向けた。
「沼倉(ぬまくら)さん、ご協力ありがとうございます」
「たいした話はできませんよ」
古びた喫茶店のテーブル下で、池内はメモアプリを起動させ、スマホを握った。仙台一番町アーケードの外れ、闇市の風情を色濃く残す壱弐参(いろは)横丁に沼倉を呼び出した。横丁から仙台駅までは徒歩で10分程度、ダッシュすれば5、6分で行ける。時間ぎりぎりまで話を聞き出したい。
「私が辞めて1年半になりますが、最近はもっとひどいことになっているようですね」
沼倉忠(ぬまくら・ただし)は池内が通った県立高校のライバル校出身で、学年は1つ下だ。県立大学を卒業し、千葉と同じ第二地銀に就職した。その後3行合併を経た仙台あけぼの銀行で営業マンを務めた。
「高橋は元気でしたか?」
「色々とクレームがあるようで、お疲れの様子でした」
「そうでしょうね。バカな営業のツケは全部彼女たちに行くから」
沼倉がため息を吐き、ニコチンで煤けた天井を見上げた。
一昨日の会合で、高橋に内情に詳しい銀行関係者の紹介を頼んだ。高橋の尽力で、市内のリース会社に勤務するOBの沼倉が取材に応じてくれた。
「お時間は大丈夫ですか?」
池内が尋ねると、沼倉が笑った。
「私は営業でいつも外回りですから。それより、池内さんは平気ですか?」
先ほど時計を気にしたことを見られたのだ。
「すみません、夕方から東京の本社で会議がありまして」
「手早く済ませましょうか。本店には行かれましたか?」
「千葉さんの高校時代の友人と名乗り、応接までたどり着きました。しかし、名刺を見せた瞬間、拒絶でした」
沼倉がコーヒーカップ横の名刺に目をやった。
「週刊新時代の言論構想社ですものね。銀行はとにかくマスコミを嫌います。ましてあんなことがあった直後ですから」
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