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前回までのあらすじ

 月刊誌記者の池内貴弘はかつての女友達で仙台あけぼの銀行に勤める千葉朱美が東京で営業していることに疑問を抱くが、詳しい話を聞く前に、朱美が自殺をする。池内は朱美が金融コンサルタントと会っていた情報を得る。さらに深く調べるために、池内は仙台に戻り、旧友や朱美の同僚と会う。

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〔第2章・侵蝕〕

(1)

 「フラット35ってなんのこと?」

 池内が尋ねると、高橋が小声で答えた。

 「住宅金融支援機構、昔の住宅金融公庫が提供する長期固定金利のローンです。完済までの最長35年間、固定金利が適用されます」

 営業部時代の同僚の顔が浮かんだ。銀行の書類のほか、住宅ローン専門の組織からのパンフレットを持っていて、近いうちに審査を受けると言っていた。

 「支援機構が全国の金融機関と提携して、ローンを貸し出す仕組みになっています」

 公的機関が受け皿となり、個人が提携金融機関から資金を得る。どんなトラブルが出たというのか。高橋がさらに声を落とした。

 「本来は本人や親族が住む住居の購入資金向けに限定されます」

 限定という言葉が池内を刺激した。同時に、大盛りの塩焼きそばを作ってくれた叔母のことを思い出す。

 「もしかして、最近増えているアパートやマンション建設向けに流用された?」

 池内の言葉に高橋が頷いた。

 「これは書かないでいただきたいのですが……」

 高橋が眉根を寄せた。

 「行内で営業が幅を利かせ、審査部門に圧力をかけるようなことが数年続いていました」

 高橋によれば、合併前はノルマ達成重視の営業部に対し、審査部が一つ一つの取引や融資を精査し、場合によってはやめさせることも度々あったという。

日経ビジネス2019年12月2日号 68~71ページより目次