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前回までのあらすじ

 月刊誌記者、池内貴弘は高校時代に交際していた千葉朱美と再会する。朱美が勤める仙台あけぼの銀行の営業手法に問題があると感じる池内は、朱美の仕事内容を尋ねるが、朱美は席を立つ。仙台に戻った朱美は自殺。池内は刑事から、朱美が東京で金融コンサルタントと会っていたとの情報を得る。

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 顧問税理士が帰ったあと、古賀は応接セットの茶碗を片付け、仕事机に向かった。パソコンのキーボードを叩き、ニュースサイトへ飛ぶ。

 〈奥津軽建設、主力銀行に緊急融資要請 想定外の受注急減で〉

 青森の地方紙ネット版に最新ニュースが掲載されている。もう一つ、別の画面を立ち上げる。信用調査会社の専用フォームにIDを打ち込み、経営難に直面した建設会社の業容を一瞥する。

 〈北海道新幹線関連の工事で一時的に収益環境が持ち直したものの、地元経済の冷え込みに加え、公共工事の漸減傾向に抗えず……〉

 調査会社の専門記者は、先行きが厳しい、倒産確率が極めて高いと分析している。今度はメーンバンクである北東北の第二地銀のIR情報をチェックする。

 直近の四半期決算を一瞥すると、本業の儲けを示す業務純益が赤字に転じている。最終損益もわずかな黒字額にすぎない。

 北東北は全国でも有数の景気冷え込み地帯だ。人口減少のピッチも速く、目玉となる産業に乏しい。地元経済の現状を勘案すれば次期最終損益は確実に赤字転落だろう。

 別の項目に目をやる。自己資本比率10%とひとまず健全のサインがある。しかしここ数年、決算対策で保有株式を減らし続けたため、経営のバッファとなる含み益は底をつきかけている。

 本業の赤字が続けば、早晩タコが自分の足を食うような状態となり、自己資本比率はあっという間に2桁を割り込み、つるべ落としのように5、6%程度となり得る。金融庁が早期警戒制度の適用を検討するのも時間の問題で、傾きかけた地元建設会社を支える余力があるとは思えない。古賀は注目した数値を手帳のメモ欄にボールペンで書き加えたあと、他の地方紙のネット版をチェックし始めた。

 地方メディアがもたらす小さな情報が古賀の商売の種になることが多い。金融コンサルタントという稼業は、全国各地にある地銀、第二地銀のほか、信金、信組や農業や漁業系の組合も取引相手にする。

 30年前のバブル経済崩壊以降、古賀の仕事は増え続けた。主力業務は財務の掃除で、高い手数料を徴収する汚れ仕事だ。ある程度の蓄えも得て、食うには困っていない。やりがいとなっているNPOの支援活動も順調だ。仕事の過程でなんども裏切りにあい、切り捨てた人間もいる。疲れ果て、なんども足を洗おうとしたが、その度に巨大な危機が大企業や金融機関に襲いかかり、各界の要人からの求めでゾンビの延命を行った。その結果、ずるずると令和に到るまで、賭場の掃除係を務めてきた。

日経ビジネス2019年11月25日号 68~71ページより目次