全6397文字
前回までのあらすじ

 月刊誌記者の池内貴弘は、故郷の銀行に勤めるかつての女友達、千葉朱美が東京で営業していることに不審を抱き、取材を始める。メガバンク行員の黒崎智は朱美の銀行を“ハイエナ”と語る。金融コンサルタントの古賀遼の元には若い官僚が訪れ、リスクの高い金融商品を抱える地銀の内情を尋ねる。

(前回を読むには、こちらをクリックしてください)

(12)

 「シンデレラアパートの一件は知っているか?」

 「シェアハウスだよな」

 黒崎は箸立ての横にある紙ナプキンを取り上げ、テーブルに広げた。

 〈東遠州銀行〉→〈シンデレラアパート〉

 ボールペンで太い文字を刻むと、黒崎が顔を上げた。

 「東遠州銀行は静岡の地銀で、早い段階から個人向け取引に特化した」

 黒崎は銀行名の横に個人向けと加えた。

 「だが、住宅ローン市場は飽和状態で、メガバンクや地域のナンバーワン地銀に歯が立たない。そこで新規でマーケットを作り出した」

 「それがシェアハウスだな」

 黒崎はシンデレラの文字の横にインチキと書き加えた。

 「シェアハウスを展開するデベロッパーが個人から金を巻き上げ、儲かるからとシェアハウスを建てさせた。だが内実は悪質な詐欺だ。そこに積極的に融資の形で加担したのが東遠州だ」

 若い男女が集うシェアハウスのドラマがヒットしたこともあり、女性専用を売りにしたシンデレラアパートは個人投資家の金を集めやすかったという。

 「蓋を開けてみれば、極小部屋で安普請、駅から遠い物件ばかりが出来上がった。当然入居者は増えず、空室だらけになったオーナーたちは大赤字だ」

 週刊新時代の特集記事を斜め読みした記憶が蘇る。頭金ゼロ、手軽な資産運用と銘打ったビジネスモデルは、結局個人が食い物にされるお決まりのパターンで行き詰まった。他にも同じような内容で個人の金を巻き上げた業者の存在があったため、叔母が心配になって池内に連絡を入れたのだ。

 「それで、なぜ仙台の銀行が東京に?」

 「東遠州は詐欺同然と知りながらシンデレラの運営会社に融資をつけた。いや、行員自身が預金残高証明書の改ざんまでやってのけた。これが金融庁から大目玉をくらい、経営破綻間際、つまり取り付け寸前の騒動になった」

日経ビジネス2019年11月18日号 72~75ページより目次