前回までのあらすじ

  金融コンサルタントの古賀遼は、副総理兼財務大臣の磯田一郎に、“不発弾”というべき危険な金融商品を抱える地方銀行の情報を伝える。月刊誌記者となった池内貴弘は叔母の電話を受ける。叔母は、かつての池内の女友達で現在は地方銀行に勤める千葉朱美から、土地活用を勧められていた。

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(6)

 箸を大皿の上に揃えて置き、池内は両手を合わせた。対面で叔母の有希が満面の笑みを浮かべる。

 「たくさん食べてもらえると嬉しいわ」

 「叔母ちゃんの塩焼きそば、相変わらずうまいよ」

 池内は大皿を叔母の背後にあるシンクに運んだ。

 突然の電話から数日経った週末、久しぶりに吉祥寺に向かった。吉祥寺駅北口からアーケード街を抜け、五日市街道方向に歩く。私立の名門学園近くの住宅街に叔母の家はある。

 「彼らは最近顔を出すの?」

 池内が従兄弟たちの名前を告げると、叔母は顔をしかめた。

 「仕事が忙しい、研究が大変だって全然寄り付かないの。東西線の直通使えば高田馬場から1本で来られるんだから、貴ちゃんはもっとウチに来ていいのよ」

 「そうさせてもらうよ」

 高田馬場駅から徒歩で5分ほど、新目白通り近くの賃貸マンションに池内は住み続けている。営業マン時代は首都圏の大型書店へ足繁く通い、兼務していた関西と九州地域に月の半分は出張した。時間が不規則で、食事はコンビニやファストフードが中心だ。久々に食べる野菜サラダ、塩ダレが効いた焼きそばの旨味が疲れた体に染み込んだ。

 「これが千葉さんの名刺、こっちがもらった資料よ」

 皿を片付けた叔母が切り出した。池内は名刺に目をやった。青と緑で縁取られた仙台あけぼの銀行のロゴの下に、本店営業部課長補佐の肩書きがある。

 やはり違和感がある。東京にはメガバンクと大手信託銀行があり、吉祥寺など都下をカバーする地銀や信用金庫や信用組合も存在する。なぜ東京から300キロも離れた仙台の地銀がわざわざ来たのか。叔母は資料を取り出し、テーブルの上に広げた。アパート、マンション経営向け融資のご案内……。かつて先輩社員が住宅ローンを組む際にいくつもの金融機関からパンフレットを取り寄せ、比較していた。無味乾燥な資料は同じように見える。