言い終えると、池内は大きく息を吐き出した。手応えは十分にあった。

 池内は古賀を見つめた。先ほどと同じで古賀は肩を激しく震わせ、頭を垂れている。

「古賀さん!」

 思い切って声を張った直後だった。ゆっくりと古賀が顔を上げた。

「古賀さん……」

 池内は息を呑んだ。目の前の古賀は大きな口を開け、笑っていた。

「池内さん。あなたは立派な記者になりましたね」

 古賀は両目を充血させ、笑っている。今まで落ち込んでいたのではなく、笑いを堪えていたのか。

「なにがおかしいんですか!」

 考えていたことと真逆の事態が起きた。頭に全身の血液が逆流する錯覚に襲われる。

「まあまあ、冷静に話しましょう」

 ジャケットの胸ポケットからハンカチを取り出し、古賀が両目を拭った。先ほどと同じように肩が揺れている。

「私が真面目にコメントを求めているのに、なんですか、その態度は!」

 自分でも驚くほど大きな声が出た。

「失礼しました。池内さんが力まれるので、おかしくなってしまいました」

 姿勢を正した古賀が両膝に手を添え、頭を下げた。

「新米記者ですから、力みます。しかし、そこまで笑わなくとも……」

「記事に対するコメントでしたね。以前も申し上げた通り、ノーコメントでお願いします」

 池内は古賀の顔を睨んだ。対面の男の両目は大きく見開き、瞬きを一切しない。口元に笑みを浮かべ、いつもと同じ口調で話している分だけ不気味だった。

「一応、記事の概略を……」

 池内がなんとか声を絞り出すと、古賀が強く首を振った。

「その必要はありません。察しはついています」

 古賀は胸ポケットから、小さなUSBメモリを取り出し、テーブルの上にあったノートパソコンに挿した。

〈このまま野放図に財政ファイナンスを続ければ、日銀の金融政策は必ず行き詰まり、財政も同時破綻する。ハイパーインフレは些細なきっかけで起こるんだ!〉

〈瀬戸口が辞めたなら、赤間総裁も連座すべき〉

〈そもそも、アシノミクスなんて馬鹿げたことに追従を許すなんて、雪村はなにを考えているんだ!〉

 古賀の目の前にあるノートパソコンから、男たちの怒声が漏れ聞こえた。聞き覚えのある声ばかりだった。