財政再建を訴えるため日銀OBらが決起した。言論構想社の池内貴弘は彼らの提言書を入手し、記事にしようと動く。一方、OBらの計画を知った副総理兼財務大臣の磯田一郎は金融コンサルタントの古賀遼に対策を依頼した。古賀から連絡を受けた池内は古賀の事務所で古賀と対峙する。
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「私の話をお聞きください」
池内は言い放った。
「日本の金融界では、節目ごとにあなたが音もなく現れ、仕事をして去っていった」
池内は鞄からタブレットを取り出した。新時代で古賀を追ったフリー記者が小松に残したメモと写真だ。
「5年前、日本を代表する総合電機メーカーの三田電機で粉飾決算が明らかになりました。この際、あなたは経営陣の支援に回り、粉飾を不適切会計と言い換え、事態を矮小化することに一役買いました」
池内は、頭を垂れる古賀にタブレットを向け、画面をタップした。先輩記者が入手した決算対策指南のメモ、対マスコミのノウハウを伝授した会議録を次々に画面に表示させ、写真のページで指を止めた。
「あなたは経済界で随一のフィクサーです。三田電機中興の祖、東田相談役とともに芦原総理と何度も会っていた。三田は大きすぎて潰せない、そんな密約があったのです」
依然として古賀は顔を上げない。肩口が微かに震えている。三田電機のほかにも、古賀が大手企業に助言した粉飾決算の数々、大手金融機関や地銀や中堅中小金融機関の不良債権飛ばしなど、数々の悪事を池内は読み上げた。
「バブル経済の崩壊、会計制度の不備、金融機関破綻に関する法律の未整備など、あなたが暗躍する余地はいくらでもありました。しかし、これだけの不正に手を染め、ときに社会問題になるような粉飾案件に関わっても、あなたは未だ訴追されていない」
よほど応えているのか、古賀は俯(うつむ)いたままだ。先ほどより肩の震えが大きくなったような気がした。
「この期に及んで、国の金融政策を曲げることに加担するのはどうでしょうか?」
池内は、古賀が磯田の代理として青山の自宅を訪れた事実は動かせない、まして脅すような形で採決を変えさせたのは、行き過ぎだと非難した。
「これは私が自力でつかんだ事実です。分水嶺にあった金融政策を曲げたことは、南雲さんたちの提言に追加して、月刊言論構想の中で必ず触れます。どうしてもあなたのコメントが必要です。ノーコメントでも結構ですよ。古賀さん、顔を上げてくれませんか?」
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