「新型ウイルスなんて、世界中の誰も予想しなかった事態だ。政府、いや政治が国民の生活を下支えするのは当たり前だし、他に誰もこの役目を負えない」

 「その通りです」

 「だがな、永田町は厄介だ。補助金や補償金を配るにしても、欲に目が眩んだ連中がワラワラと湧いてきやがる」

 「そうなんですか?」

 「党の族議員の連中だ。選挙区に帰れば、議員は地元の利益の代表だ。有権者が困っていたら我先にと補償金を分捕っていくのが議員の役目。これが束になると、業界の利益のために奪い合いだ」

 「当然、役所の皆さんはその辺りを警戒されているわけですね?」

 「そうだ。重要度の低い補助金、利益誘導がみえみえの補償金の類いが官邸に陳情され、それが役所に丸投げされてくる」

 「どうか、お体だけはお気をつけになってください」

 「俺は大丈夫だ。銀座も六本木も行きつけの店は軒並み休業中だ。それに、例の支援者の件は助かった。改めて礼を言う」

 「ツテがあっただけの話です」

 2週間前、磯田の東京後援会幹部が発熱した。解熱剤が効かず、味覚障害も続いたが、どこの病院も取り合ってくれなかった。秘書から連絡を受けたあと、古賀はかつて裏仕事をこなした有名私大系列の病院を紹介した。緊急検査を受けると、新型ウイルスの感染が確認され、隔離病棟に入院できた。以降、経過は良好だという。

 「御用命ありましたら、いつでもご連絡を」

 磯田が頷いた。官邸と財務省の綱引き、そして病院の礼のために呼び出す磯田ではない。古賀が首を傾げると、目の前の老練な政治家が口を開いた。

 「あの件はどうなっている?」

 「本石町ですね?」

 磯田の口元から笑いが消えた。中目黒のバーで飲んで以降、言論構想社の池内とは会っていない。事務所や自宅マンション周辺を歩く際、周囲を注意深く観察してきたが、池内や他の記者から監視されている様子もない。

 「古賀、ライブビューって知ってるか?」

 唐突に磯田が切り出した。

 「ええ、パソコンやタブレットで使うオンライン会議システムです」