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前回までのあらすじ

 月刊誌記者の池内貴弘は、日銀OBらによるクーデター計画を取材する中で西北大学教授の青山ゆかりに会い、国の低金利政策が進められた裏側を垣間見る。その裏側に関わった金融コンサルタントの古賀遼の元を訪れた金融官僚の江沢丈は、地方銀行の逼迫した状況を明かす。

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 「今日明日に弾ける問題ではありませんが、史上最悪の事態が迫っているのは確かです」

 スコッチのストレートを2杯飲んだ直後で、江沢の頬がほんのり赤らみ始めた。

 「新型ウイルスの世界的な蔓延で、主要国の株価指数は軒並み20%以上も下落しました。新興国はさらに酷いですね」

 古賀はここ2、3カ月間の日米欧の主要株価指数のチャートを頭の中で描いた。新型ウイルスが感染爆発を起こしたことで、株式という高リスクの金融商品は壊滅的な打撃を受けた。チャートと同時に、いくつかの地銀や第二地銀のロゴマークが点滅した。元々経営体力が弱っていたいくつかの地域金融機関は、内外の証券会社や運用会社に勧められるまま、海外の株式や債券に投資していた。また、高利回りを追及するあまり、格付けの低いベンチャー企業債券を集めた投信に金を投じた向きも少なくない。

 目先の決算さえ乗り切れば良い、そんなスタイルの投資商品をここ数年で仲介しなくなった古賀にとって、個別にどの地域金融機関が危うい商品を保有しているかはわからない。その旨を江沢に尋ねた。

 「以前、高田馬場のバーでお教えいただいた通り、ヤバめの個別行、商品に関してはきっちりモニタリングしています。万が一、想定以上の損失が発生した際には、ほぼ自動的に炙り出しが可能な体制を構築しました。古賀さんのおかげです」

 「それでは問題は別に?」

 「地域金融機関経営陣の危機感の乏しさ、そして傲慢な態度。全国を飛び回って嫌というほど実感しました。ただ今回の新型ウイルスは全く予想していない事態を引き起こします」

 「具体的には?」

 「釈迦に説法ですが、まずは新型ウイルス流行前の基本的な状況です」

 江沢は全国に約100ある地域金融機関のうち、半分近くの業務収益が赤字であり、このうち、30近くが5期連続で赤字となるだろうと語った。

 個別金融機関の細部まで決算の中身をチェックしていなかったが、経済メディアのまとめ記事等々で古賀も知っている話で意外感はない。

 地方の人口と企業数の減少のほか、景気低迷の長期化により、銀行の融資先が加速度的に減っているのが苦境の原因だ。

 古賀の事務所を訪れた仙台の女性行員の顔が浮かんだ。自ら命を絶った女性行員は、傾き続ける地銀の人柱になった。あの女性が縁で、言論構想社の池内記者や仙台の酒問屋の勝木と知り合った。