前回までのあらすじ

 新型ウイルスのまん延、さらに米国大統領の選挙を意識したドル安誘導により、日本経済の深刻さは一層強まる。月刊誌記者の池内貴弘は、日銀クーデター計画の中心人物だった南雲壮吉を待ち伏せる。金融コンサルタントの古賀遼に計画を阻止された南雲は、重い口を開き始める。

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「クーデター計画はどこまで進んでいるのですか?」

 池内は切り出した。

「なぜ、池内さんがそのことを?」

 南雲の声が微かに震えていた。

「信じてもらえるかどうか不安ですが」

 池内は週刊新時代の堀田の存在を明かした。たまたま社内で一緒に食事をした際、南雲の発言を堀田に伝えたところ、新時代のネタ元が同一だったことがわかったと説明した。

「新時代が南雲さんのことを外部に明かしたわけではありません。そのあたり誤解のないようにしてください」

 池内が力を込めて言うと、南雲が納得したように頷いた。

「あれはもう無理です」

「どうしてですか?」

「磯田先生を怒らせてしまったからです」

 消え入りそうな声で、南雲が言った。

「磯田副総理がどう関係するのですか?」

 池内の問いかけに、南雲が深いため息を吐いた。

「実はこんな背景がありました」

 南雲は、スペンサー大統領の名をあげた。思いつき、独善、我がまま、強欲……多種多様な言葉でスペンサーが史上最悪の大統領であると説明し、顔を紅潮させた。

「私個人の人脈として、スティーブ・ウォーターズ議長と親交がありました。スペンサーの言う通りに金融政策を行ったのでは、米国だけでなく世界中の市場(マーケット)が壊れてしまう。スティーブの懸念を共有できる人物として、磯田副総理の名が挙がり、私は2人のパイプ役を務めていたのです」