日銀副総裁が行内不倫で辞任し、海外からも批判の声が上がる。月刊誌記者の池内貴弘は背後にOBのクーデター計画があったことをつかみ、自らの取材対象である金融コンサルタントの古賀遼にその事実を伝える。古賀は副総理の磯田一郎に報告し、磯田から対処を依頼される。
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古賀がステンレス製のモダンなドアをノックすると、中から朗らかな声が響いた。
「どうぞ、お入りください」
古賀はドアを押し開け、個室に足を踏み入れた。執務机で英字紙を読んでいた南雲が立ち上がり、古賀を応接のソファへと誘導した。
磯田から電話をもらった翌朝、古賀は南雲のスマホにショートメッセージを発した。大手町と神田駅方面に所用がある、その際に立ち寄ってもよいかと尋ねると、南雲は快諾してくれた。午前9時35分、古賀は大手町の最新鋭商業ビルを訪れた。
「いきなりのお願いで恐縮です」
「とんでもない。古賀さんなら大歓迎ですよ」
南雲は内線電話で秘書にコーヒーをオーダーし始めた。ミルクや砂糖も持ってくるよう指示を出す南雲を横目に、古賀は背広の下、ワイシャツのポケットに触れた。
「午後から会議が2本だけでして、午前中はリポートの続きを書くつもりでした」
対面の席に腰を下ろすなり、南雲が言った。
「お邪魔ではありませんか?」
「簡単な景況分析です。部下に書かせてもよいのですが人任せにできない性分でして」
南雲が謙遜気味に言ったとき、ネイビーのスーツ姿の女性秘書がコーヒーとクッキーをトレイに載せ、部屋に現れた。
「秘書は非常に優秀な上にイケる口です。そうだよね?」
てきぱきとコーヒーカップを配膳する秘書に向け、南雲が言った。
「今度、レアな日本酒のイベントを開きます。ぜひおいでください」
古賀は胸ポケットから名刺大の案内状を取り出し、南雲と秘書に渡した。
「南雲さんにはいつもご支援いただき、感謝しております」
南雲と秘書にそれぞれ頭を下げた。
「それでは、必ず伺います」
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