月刊誌記者の池内貴弘は、日銀副総裁の不倫報道の裏に、日銀OBらのクーデター計画があったことに気づく。池内は、政財界の「掃除屋」こと、金融コンサルタントの古賀遼に話を聞こうとする。磯田一郎副総理の私邸を訪れていた古賀は、池内が指定したバーに向かう。
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「それでは、ごゆっくり」
水割りセットを池内の目の前に置いたあと、男性スタッフが頭を下げ、厨房に消えた。
「お作りしますね」
綺麗に磨き上げられたグラスを手元に引き寄せ、池内は古賀に言った。
「薄めでお願いします」
古賀が口元に笑みを浮かべた。アイスペールから氷を取り出し、グラスに入れる。純度の高い氷にバーボンを注ぐ。手早く水を加え、古賀に差し出した。早く訊け……新米でも記者は記者だ。自らのグラスにバーボンを満たしながら、池内は唇を噛んだ。
「それでは改めて、乾杯」
水割りが揃ったことを確認すると、古賀がグラスを目の高さに掲げた。池内は一口水割りを飲み、切り出した。
「勝木のこと、本当にありがとうございました」
「既に様々な企画が進行中です。彼は我々の重要なパートナーです。今後もずっとです」
古賀が深く頭を下げた。とんでもないと言いつつ、池内も頭を下げた。古賀から言われるまでもなく、勝木からは頻繁に連絡が入った。自殺を考えるほど追い込まれた故郷の親友は別人のように仕事に飛び回っている。古賀が取引先の銀行を紹介してくれたおかげだ。
「今度、このバーでも日本酒のイベントをやりたいですね」
モダンな調度の店内を見回し、古賀が声を弾ませた。勝木の家業再建には目処がついた。いよいよ自分の番だ。そう言い聞かせ、池内は口を開いた。
「メッセージの件です。お話ししても構いませんか?」
「日銀の副総裁人事ですね」
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