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前回までのあらすじ

 月刊誌記者の池内貴弘は前例のない低金利が続く金融の実態を取材していた。そんな中、日銀副総裁の不倫が報じられる。金融コンサルタントの古賀遼の元を訪れた日銀OBの南雲壮吉は副総裁のポスト人事をめぐる不穏な動き、さらに日本の金融が出口無き状態であることを憂える。

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「ちょっと失礼します」

 対面に座る南雲に断り、古賀はスマホを取り上げた。

「お急ぎの要件でしたら、私はこれで」

 南雲が腰を浮かしかけるが、古賀は首を振った。

「すぐに終わります……」

 外資系通信社の速報サービスのアプリに、新着ニュースの星印が点滅していた。

〈米民主党、ブラウン候補が大躍進 世論調査でもスペンサー大統領と支持率拮抗〉

 古賀はスマホの画面を南雲に向けた。その途端、南雲の顔が曇る。

「ブラウンですか……」

 米民主党は、全米の支持率で共和党の現職スペンサー大統領に大きく水を開けられていた。史上初のアフリカ系大統領が2期8年の任期を終えたあと、民主党は後継候補が乱立、党内の路線対立で混乱が際立ち、有権者の支持離れが顕著になっていた。

 だがここ数週間、スペンサー大統領の3年間の政権運営で急激に経済格差が広がったため、これを是正しようと立ち上がったブラウン候補が他の候補たちから頭ひとつ抜け出した。ブラウンは元副大統領であり、実績、能力は申し分ない。古賀は記事を追った。

「一番の注目点は、あれだけ開いていた全国支持率でブラウン候補がスペンサーを猛追していることですね」

 日銀時代に駐米経験のある南雲が唸った。

「アメリカが社会主義的な政策運営になる可能性はなくなりましたね。」

 ブラウンの最大のライバルだったジョーンズ候補は前回の民主党大統領候補選挙にも出馬した。当時から一貫しているのは、経済格差の是正というテーマだ。

日経ビジネス2020年6月1日号 52~55ページより目次