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前回までのあらすじ

 月刊誌記者の池内貴弘は、女友達の自殺をきっかけに地方銀行の窮状を取材し、金融コンサルタントの古賀遼から貴重な情報を得る。実は古賀は政財界の裏側に通じていた。池内の会社の週刊誌が日銀副総裁の不倫を報じる。政府や市場関係者は不倫報道の行方を気にかけていた。

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(13)

 大きなスクリーンに9人の顔写真が映る。伸縮型のボールペンで富樫が再度顔写真を指した。次いで、富樫が四分割された表の中心、上下を表すラインに合わせ、ボールペンを添えた。

 「私が言いたかったのは、こういうことです」

 池内は伸びたボールペンを見た。先端の白いキャップが〈リフレ派〉のメモを指し、ペンの根元は〈財政均衡派〉の部分に当たる。

 「ボールペンの左側にご注目ください」

 〈リフレ派〉で〈ハト派〉を示す左上のマスには、瀬戸口副総裁と2人の審議委員、計3名の顔写真がある。

 「赤間総裁もかつては〈リフレ派〉〈ハト派〉を示す左上のマスにいましたが、今はリフレ色が弱まり、中間派に変わりつつあります」

 たしかに、白髪頭の赤間の顔写真は左半分の中間線の上にある。赤間の下には、額が後退した中年太りの顔写真がある。

 「雪村(ゆきむら)副総裁は総裁をフォローする立場ですから、緩和には積極的なスタンスです。しかし日銀プロパーらしく財政の均衡を強く意識されています」

 雪村副総裁の顔写真は、左下のマスにある。

 「雪村さんは緩和推進の枠にいますが、日銀による財政ファイナンスへの批判を考慮しているのか、最近はより財政均衡派に近づいています」

 もう1人の副総裁、瀬戸口の位置を示す針が11時ならば、雪村は7時だ。

 「こちら側、つまりペンの左には何人いますか?」

 「5人ですね……」

 池内の答えに富樫が頷く。

 「そうなると……」

 池内はペンの右側を見た。4つのマスの中心部付近に男女の顔写真がある。ハト派とタカ派の分類の真ん中より少しだけ右側、すなわちタカ派寄りだ。その2人の下、縦線の下部分にもう2人いる。

日経ビジネス2020年5月25日号 54~57ページより目次