月刊誌記者の池内貴弘は地方銀行の取材をする中でコンサルタントの古賀遼に出会う。編集長の小松勝雄は、古賀は政財界に通じる掃除屋だと言い、池内に古賀の取材を命じる。だが、古賀は取材を拒否。やむなく古賀の追跡を始めると、古賀は副総理の磯田一郎の車に乗り込んだ。
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「しっかし、動かねえな」
舌打ちした堀田がラジオのスイッチに手をかけた。
〈都内の中心部では、大規模な工事が何箇所かあり、これに伴う激しい渋滞が……〉
池内が女性アナウンサーの声に耳を凝らすと、目の前の工事現場の名が告げられた。磯田車と警護車はガード下を抜け、その先の横断歩道の手前で停まっている。
「大丈夫、見失っていませんから」
後部座席から顔を出し、池内は前方を監視した。
〈次は速報です。北京からの報道によると、中国内陸部の複数の大都市で新型肺炎とみられる病例が報告され同国政府は緊急の……〉
交通情報を読み上げていた女性アナウンサーの甲高い声が続く。
〈次は永田町の話題です。先日、定例の大臣会見で問題発言を行った……〉
「よし、動いた」
誘導員が赤色灯を動かした直後、堀田がハンドルを切り、ミニバンを動かした。依然としてノロノロの走行が続くが、ようやくミニバンはガード下を通過した。
「本当に銀座へご出勤だ」
5台前を行く高級セダンを目で追いながら、堀田が言った。2台のセダンを目で追いつつ、池内は考え続けた。
磯田の車両に乗り込んだ古賀はなにを話しているのか。経済界の掃除屋と副総理兼財務相の組み合わせは異質であり、極めて不自然だ。
有楽町を離れると、周囲の車がようやく走り始めた。周囲は磯田の車両と同様に黒塗りのハイヤーが増え始める。
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