前回までのあらすじ

月刊誌記者の池内貴弘はかつての女友達の自殺の原因を調べるうち、金融コンサルタントの古賀遼と出会う。編集長の小松勝雄は池内に、古賀は政財界に通じる掃除屋だと告げ、取材を命じる。そんな折、日銀内の不倫が週刊誌に載る。財務大臣の磯田一郎ら関係者は続報を気にしていた。

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(5)

 地下1階の社員食堂で池内が日替わりの唐揚げ定食を食べ始めたとき、長テーブルに小松と新時代の高津がそれぞれトレイを持って現れた。

 「元気ですか?」

 ざるそば定食を手にした小松が声をかけると、カツ丼のトレイを携えた高津が頷いた。2人は池内の横、1人分の席を空けて向かい合って座った。

 社員食堂は昭和の雰囲気を残すレトロな白テーブルが20脚ほどあり、70名ほどが同時に食事できる。2人の編集長のほか、総務や経理、システムや営業担当の社員たちも思い思いの席に着き、好みのメニューを味わっている。

 2人に軽く会釈したのち、池内はスマホを取り出し、主要ニュースを載せるサイトに目をやった。新旧の上司が近くにいる。仕事をこなしていないだけに居心地が悪い。2人の編集長は互いの子供の進学や名物カメラマンの話で軽口を叩いたあと、食事を摂り始めた。

 池内は付け合わせのキャベツに大量のドレッシングをかけ、口に運んだ。早く昼食を切り上げ、別の場所に移動したい。レポート提出が遅れている学生と同じだ。ニンニクの下味がたっぷり効いた唐揚げを味わう余裕などない。

 「アレ、大手柄でしたね」

 そば湯を猪口に注ぎながら、小松が小声で言った。

 「おかげさまで。筋の良いルートでして」

 カツ丼と格闘しながら、高津が応じる。固有名詞を出さないが、新時代が放った日銀副総裁の一件であることは間違いない。

 「この際、首を取ってやりますよ」

 高津が言った。紙ナプキンを取りながら小松の表情をうかがうと、鷹揚に笑っている。かつて2人は編集長とデスクの関係で、週刊新時代で苦楽を共にした。多くを語らずとも、高津がどの程度相手を追い込んでいるか、小松は手の内がわかる。

 池内は丼の白米もかき込んだ。この場に日銀の広報課長がいたら、絶句するどころか、床にひっくり返るだろう。首を取るとは、瀬戸口副総裁のことに他ならない。

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