前回までのあらすじ

月刊誌記者の池内貴弘は、かつての女友達の自殺の原因を調べるうち、日本の金融の異常な実態を知る。池内にヒントを与えたのは、金融コンサルタントの古賀遼だったが、その古賀は金融の掃除屋という顔も持っていた。折しも、日銀内の不倫の記事が週刊誌に載る。外資系の投資ファンドは記事に注目していた。

前回を読むには、こちらをクリックしてください

〔第4章・撃鉄〕

(3)

 仕事らしい仕事をまったくこなせないまま、言論構想社の看板月刊誌「言論構想」新年号が昨夜、校了した。

 編集長の小松が責了印を押した直後、副編集長の布施や3人のデスク、出入りするライターやカメラマンが相次いで早朝まで営業する居酒屋に出向き、編集部は空っぽになった。池内は神楽坂での一次会にのみ顔を出し、帰宅した。多忙な媒体で戦力になっていないことは存外に辛かった。酒を勧めてくれる外部ライターの気遣いも重荷だった。

 昼過ぎで大丈夫と言われたが、営業部時代の癖が抜けず、午前9時半すぎに編集部に出社した。案の定、大部屋は空っぽだった。誰もいないスペースで、池内はここ1カ月間に取材で得たデータを整理し、企画メモにキーワードを落とし込んだ。だが、作業は遅々として進まない。原因は一つ、小松が発した言葉だ。

〈絶対に記者を寄せ付けなかった人物が、すんなりあなたに会い、協力まで申し出た〉

〈これは編集長命令です〉

〈私もスクープが大好物ですから〉

 5日前、取材メモを覗き込んだ小松が古賀の名前に鋭く反応した。古賀はメディアを寄せ付けることのない経済界のフィクサーであり、数々の企業の負の遺産を海外に飛ばし、政権幹部とも関係が深いという。実際、三田電機という日本を代表する企業の粉飾決算が世間を賑わせた際、週刊新時代のエース記者が背後を洗い、芦原首相との密会までつかんでいた。小松は古賀に密着し、インタビューなり、企画記事なりを出すよう厳命した。

 池内は途中で止まったメモに目をやった。小松は古賀をフィクサー、掃除屋と呼んだ。はなから悪人、悪者として捉え、これを企画やインタビューのキモに据えるよう暗に要求したのだ。

 だが池内には古賀が悪人とは思えなかった。過去の取材データを見る限り、古賀が三田電機やその他一流企業の財務スキャンダルに深く関わったのは事実だ。しかし、悪事に手を染める人間は、決まって生活が派手になり、押し出しも強くなる。新時代の張り番だったころ大規模詐欺グループの首謀者や、情報商材と称したインチキテキストを売るゴロツキたちを取材したことがある。

続きを読む 2/6

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り4086文字 / 全文6421文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題