月刊誌記者の池内貴弘は、故郷・仙台の地方銀行員だった、かつての女友達、千葉朱美の自殺の背景に、金融政策により追い詰められた銀行や中小企業の悲惨な状況があったことを知る。同時に池内は、自分に情報を提供してくれる金融コンサルタントの古賀遼が、政財界で暗躍する人物であることを知る。
〔第4章・撃鉄〕
(1)

神保町の事務所で主要紙の記事をスクラップしたあと、古賀は応接セット近くにある液晶テレビの電源を入れた。
時刻は午前9時10分、公共放送NHRは朝の情報番組でドメスティックバイオレンスの特集を放映中で、古賀はチャンネルを切り替えた。日本橋テレビはウエリントン型のセルメガネをかけたインテリ漫才師がしたり顔で、新聞や雑誌のコピーが貼られたボードの前に立っていた。ボードには大きな文字や写真が並ぶ。
〈一昨日発売の週刊新時代、またまた特大スクープでしたね〉
漫才師がボードに貼られた水色の画用紙を剥がすと、引き伸ばされた薄暗い写真が画面に映った。プリントの右下には〈週刊新時代提供〉の文字がある。
〈なんと、日銀のナンバー2の副総裁に不倫疑惑です!〉
画面が切り替わると新時代の白黒見開きページだ。大映しになった画面には、仲睦まじく夜の街を歩く男女の姿がある。漫才師はアンテナ型のボールペンを伸ばし、男性の写真をなんども叩く。
〈芸能人やスポーツ選手の色恋話に食傷気味の皆さん、びっくりされませんでしたか?〉
漫才師が扇情的なトーンで話すと、カメラが司会の女性アナウンサー、ゲストの女性弁護士や白衣姿の著名クリニック院長を映し出す。司会者やコメンテーターが一斉に顔をしかめ、眉根を寄せる。
〈副総裁、元々は私立大学大学院の教授でしたよね?〉
女性アナウンサーが口を尖らせる。
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