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 「坂口記者が残したメモです」

 手帳のページをめくり、小松が折り畳まれた書類を取り出した。

 「古賀氏の経歴です」

 広げられた書類には、細かい文字がびっしりと並んでいた。様々なスクープを放った坂口の精緻な仕事ぶりがうかがえる。

 〈福岡県大牟田市出身〉

 〈地元商業高校卒業後、準大手証券の国民証券に入社〉

 〈東証の場立ち要員からキャリアをスタート、吉祥寺支店、新宿支店で個人向け営業を務めたのち、本店法人営業部に異動〉

 〈同社退社後、個人事務所コールプランニングを設立、金融機関、事業法人向けのコンサルタント業務を展開〉

 それぞれの項目には細かい年月日が書き込まれている。また、古賀が関係したとされる人物の名前、それに手書きで彼らから得た証言も加えられている。

 「証券マンだったのですか」

 「問題はここです」

 小松が法人営業の部分を指した。

 「バブル経済の崩壊前後、日本の証券会社は大変なスキャンダルに見舞われました。損失補填事件です」

 株式投資は元本が保証されていない。その分だけ見返りが大きい、いわゆるハイリスク・ハイリターンの典型だと小松が告げた。

 「しかし、バブルで財テクに走った大手企業は、損をしてもこれを計上しませんでした。なぜなら、取引のある証券会社に補填させていたからです」

 「そんなアンフェアなことが……」

 「今から30年ほど前はまかり通っていました」

 池内は思わず腕組みした。だが、次第に小松の狙いが見えてきたような気がした。

 「古賀氏はその損失補填に手を貸し、そのスキルをコンサル業務に活かしたのですか?」

 「その通りです。最高傑作ともいえる取引が、三田電機やゼウス光学の粉飾決算でした」

 「それぞれの企業幹部は厳しく罰せられたはずです」

 「ゼウス光学の場合、逮捕者が出ました」

 「なぜ古賀氏は責任を問われなかったのですか?」

 「そこが謎なのです」

 一旦言葉を区切った小松が、再度手帳をめくった。数ページ辿ったところで、小松の手が止まる。