「これは彼がベテランカメラマンとともに撮影した写真です」

 手帳の中ほどから小松が1枚の写真を取り出し、池内の前に置いた。

 「拝見します」

 プリントを手に取る。薄暗い夕暮れどき、都内にある料亭の前で写されたもののようだ。だが、望遠でとらえた1枚は粒子が粗い。かろうじて背広姿の男2人がいるとわかる。

 「これもどうぞ」

 同じ料亭の前だ。今度は道路脇の木陰から狙ったショットで、2人の男の後ろ姿が写っている。1人は飛び抜けて背が高く禿頭で、もう1人も細身で足の長い男だ。2人の視線の先には、黒塗りの大型セダンのテールランプが見える。

 「もう1枚あります」

 ポーカーでカードを配るように、小松が新たな1枚を机に置いた。カメラマンが道路脇の別の場所に移動したのだろう。2人の男の顔が見える。

 「あっ」

 背の高い禿頭の男は知らないが、右側の男には見覚えがある。

 「やはり同一人物でしたか」

 小松が低い声で告げた。

 「なぜ新時代が古賀さんをマークしたのですか?」

 勝木にとって恩人となるコールプランニングの古賀に間違いない。切れ長の鋭い両目、細い体躯、古賀に他ならない。坂口と老練なカメラマンがコンビで動くのだ。芸能人やスポーツ選手のスキャンダルを追いかけているのではない。新時代特有の言い回し、中吊り広告のトップ記事、〈右の頭〉を張る特大スクープを追うチームがなぜ古賀を狙っていたのか。

 「もう1人の背の高い老人は、三田電機の東田相談役です」

 就職活動をしていた頃、大学の同期が三田電機の会社案内を手にしていた。社長か会長としてプリントされていたのがこの東田だ。

 「彼らが料亭から見送ったのが、芦原恒三内閣総理大臣です」

 「えっ……」

 唐突にこの国のトップの名前が出てきた。芦原首相という超がつく大物が登場するならば、坂口らの最強取材チームが編成されたのにも合点がいく。

 「坂口記者と私で半年以上、調べを続けました。なぜ粉飾ではなく、不正会計とか不正経理とか、緩い言葉が使われたか、その根拠を探ったのです」

 「芦原首相と関係があったのですか?」

 池内の問いかけに小松が頷いた。

 「東田相談役は、ここ20年で最高に三田電機の業績を伸ばした功労者であり、芦原さんとは長年の付き合いでした」

 小松がスクラップブックに手を伸ばし、またページをめくり始めた。