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前回までのあらすじ

 池内貴弘は、自殺した地銀行員の千葉朱美が、勝木真一の会社の融資担当で、2人が男女の仲だったと知る。勝木の会社は経営が傾き、千葉は銀行との板挟み状態だった。池内は金融コンサルタントの古賀遼に勝木の会社救済を依頼する。古賀は池内の話で日銀内の不倫が記事になることを知る。

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 池内が帰った直後、古賀はノートパソコンでネット検索を始めた。

 〈日銀 不倫 スキャンダル〉

 思いついたキーワードを入れ、エンターキーを押す。

 〈日銀出身の女性フリーアナ、サッカー選手と不倫〉

 〈元日銀の著名コンサルタント、不正蓄財スキャンダルの内実〉

 〈霞が関、日銀のスキャンダルまとめ〉

 検索結果一覧に、目的の項目はない。今度は週刊新時代というキーワードを加えてみるが、やはり一致する記事やブログの類いは一切ヒットしない。

 〈日銀のスキャンダルです。さすがにゲラをお見せするわけにはいきませんが、幹部の不倫ネタです〉

 ほんの5分前、池内ははっきりとそう言った。新米記者の目の前には週刊新時代というスクープ誌のゲラのファイルがあり、池内が中身を要約して伝えてくれた。南雲が懸念した一件が、早くもメディアに流れたのは間違いないだろう。それも実話系週刊誌やスポーツ紙ではなく、ここ数年何人もの大臣や議員の首を取り、芸能人やスポーツ選手のキャリアを潰えさせてしまった週刊新時代だ。

 検索画面を閉じると、古賀はスマホを取り出して通信履歴をたどった。目的の人物の名前の上で画面をタップする。4、5回呼び出し音が鳴ったあと、相手の声が耳に響いた。

 〈どうされました、古賀さん〉

 男の声の背後から聞き覚えのあるダミ声、そして抑揚のない口調で話す男の声が響く。筆頭私設秘書は財務省の大臣室にいるようだ。

 「昨夜メールした件です」

 〈情報をいただいた直後、日銀の協力者にそれとなく伝えました。それがなにか?〉

 やはり、磯田の筆頭秘書でさえ情報をつかんでいない。唾を飲み込んだあと、古賀は言葉を継いだ。

日経ビジネス2020年3月23日号 78~81ページより目次