前回までのあらすじ

月刊誌記者の池内貴弘は、自殺したかつての女友達、千葉朱美の自殺に、友人で酒問屋を営む勝木真一が絡んでいることに気づく。金融コンサルタントの古賀遼は、日銀の副総裁と局長秘書が不倫関係にあるというスキャンダルを知る。2人の関係が明かされた背後に何らかの狙いがあるのは明らかだった。

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(11)

「録音するぞ」

 公園の中にある街灯の乏しい光を頼りに、池内はスマホのアプリを起動した。

「記事にするのか?」

 ベンチの下の土を見つめたまま、勝木が小さな声で言った。

「事と次第による。それ以前に、千葉とおまえの間になにが起こったのかを知る必要があるし、彼女の両親にも伝える義務がある」

 池内は冷静に言い放った。

「随分記者っぽくなったじゃないか」

 洟をすすりながら勝木が言った。だが視線は地面に落としたままで、頭も垂れている。常に軽口を叩く郷里の親友の姿はない。

「銀行から融資の返済を求められたのはいつだ?」

 素早くスマホを勝木に向ける。

「おかしくなり始めたのは、2カ月前だ。自販機事業で設備の入れ替え時期が来たから、いつものように銀行の担当者に会いに行った」

「千葉だったのか?」

「いや、前任者だった」

 勝木によれば、年に何度か依頼する運転資金の借り入れ相談で、前任者は事務的に了解し、稟議に回すと言ったという。この段階では銀行は今まで通りのスタンスだった。

「ところが半月後、前任者が転勤すると千葉が後任として現れた。そのとき、運転資金の融資が難しくなるかもしれない、そう言われた」

「それは千葉の判断か? それとも上司の意思だったのか?」

 池内は矢継ぎ早に尋ねた。

「詳しいことはわからない。ただ、組織の在り方を見直した結果で、他の取引先にも同じように説明すると千葉は言った」

「運転資金の借入額は?」

「1500万円だ。定期的な設備の入れ替え時には問題なく出ていたし、返済を滞らせたことは一度もない」

 勝木の言葉に力がこもり始めた。

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