前回までのあらすじ

 金融コンサルタントの古賀遼は外資系投資銀行のオフィスを訪ねる。そこでは、人工衛星やAI(人工知能)など人間の能力をはるかに上回る最新技術を駆使した資産運用が行われていた。一方、女友達の自殺の背景を調べる月刊誌記者の池内貴弘のもとには、いなほ銀行の黒崎智から、気になる連絡が入った。

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 「生ビール2つ、それからガメ煮と一口餃子をそれぞれ2人前ね」

 前掛け姿の店員に向け、黒崎がぶっきら棒に言い放った。店内には豚骨スープを炊く香りが漂う。

 「悪いな、いきなり誘って」

 「平気だ。これから三鷹支店時代の飲み会だし、道すがらってやつだ」

 「でも、支店長とか上役がいるだろう。飲んでも平気なのか?」

 「今の支店長は超がつくほど嫌な奴だ。素面(しらふ)で会う度胸はない」

 「減点されないか?」

 「いっそのこと大減点してもらって、こんな商売から抜け出したいよ」

 紙ナプキンで手を拭きながら、黒崎が吐き捨てるように言った。

 高田馬場の裏通り、未明まで営業する九州居酒屋で池内は黒崎の顔を見つめた。普段は軽口を叩き続ける男だが、今日は表情が違う。

 編集部で調べ物をしていたとき、黒崎から連絡が入った。多忙なメガバンクの企画マンに対してはいつも池内から連絡を入れる。それがわざわざ電話をかけてきた。中身は仙台の同級生・勝木に関するものだった。

 アルバイト店員が小さなテーブルにジョッキとお通しの小鉢を置いた。乾杯もそこそこに黒崎がビールを飲み、口元に付いた泡を手の甲で拭った。

 「奴がクロを訪ねた用件は?」

 編集部で電話をもらった際、黒崎は会って直接話すと言ったのみだ。

 「大手町の本店で応接に通した。えらく顔色が悪かった。それに、気になることもあった」

 黒崎が言葉尻を濁す。普段ズケズケと話す男だけに、先が気になる。

 「結論を教えてくれよ」

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