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前回までのあらすじ

 月刊誌記者の池内貴弘は、かつての女友達の自殺をきっかけに、地方銀行が抱える闇の部分に気づく。ベテランジャーナリストの河田雄二は池内に、日本の金融が異常事態にあると語る。

 金融コンサルタントの古賀遼は若手官僚の江沢丈に会う。江沢は地銀の経営を監督する立場に就いていた。

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 3杯目の前割りを飲み、河田が言葉を継いだ。どの程度の強さの酒かわからないが、酔った様子はない。むしろ両目が醒め、形相が凄みを増している。

「アメリカで突発的なことが起きた。いや、今後、恒常的になるかもしれない」

 池内が突発的とメモしたとき、対面の河田が咳払いした。

「アメリカ、短期金利、急騰で検索してみな」

 言われるままメモアプリをネット画面に切り替え、キーワードを打ち込む。

「出てきました……」

〈米国短期市場で金利急上昇、一時10%に〉

 海外通信社の市況記事だ。異動して経済担当を命じられた。以降、電車の中やランチ時に主要なメディアの見出しには目を通した。現在、日本だけでなく世界的な低金利が続いていると解説記事を読んだが、このニュースは見落としていた。

「世界的な低金利のご時世に10%ですか……」

「アメリカの短期金利の誘導目標はおおよそ2%だ。それが10%にまで跳ね上がるなんて、どうかしている。世界的な大事件が起こった直後なら理解できるが、平時に起こった。ある意味で事件だ」

「事件?」

「アメリカの短期市場をウォッチしているのは、連邦準備制度理事会(FRB)だ。日銀と同じように、担当者が逐一市場をチェックしていたのに、急上昇を抑えることができなかった」

 池内はスマホの中の記事に目を向けた。

〈米国短期金利は、法人税支払いのほか国債関連決済のため資金需要が一気に強まり、FRBの誘導目標上限を大きく超え急上昇した。このため、FRBは約11年ぶりに緊急資金として約750億ドル(約8兆円)を注入した〉

日経ビジネス2020年1月20日号 58~61ページより目次