シリーズ
Exit

完結
閣僚らの意を受けて暗躍する金融コンサルタント、古賀遼。大手出版社で営業から月刊誌の経済担当となった池内貴弘。日本の金融政策は手詰まりとなる中、日本経済には大きな波が近づく。そして二人の男の運命も、大きく動き出す。
51回
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相場英雄著 小説・Exit 最終回「訪問者」
「どうぞごゆっくり」口元に透明なシールドを着けた店主が苦笑いした。「お客様がなかなか戻りません。今晩は実質的に貸し切りです」「すまないねえ、これから知り合い連れて来るから」池内の対面に座る河田が嗄れた声で言った。
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相場英雄著 小説・Exit 第50回「取引」
「私の話をお聞きください」池内は言い放った。「日本の金融界では、節目ごとにあなたが音もなく現れ、仕事をして去っていった」池内は鞄からタブレットを取り出した。新時代で古賀を追ったフリー記者が小松に残したメモと写真だ。
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相場英雄著 小説・Exit 第49回「呼び出し」
目の前の磯田が眉根を寄せ、葉巻の煙を天井に吐き出した。革張りソファの肘掛にある左手、5本の指が忙しなく動いている。相当に機嫌が悪い。古賀は身構えた。「また板挟みだよ、まったく、たまらんぞ」「ご心痛、お察し申し上げます」「…
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小説・Exit 第48回「秘密の客室」
「こちらでございます」細身のスーツを着たホテルマンに誘導され、池内は地下駐車場から業者搬入口、そして厨房横のスタッフ専用通路を通り、宴会用コンテナを運ぶエレベーターに乗り込んだ。壁一面にアルミ板が打ち付けてある特殊な構造…
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小説・Exit 第47回「提言書」
本社15階の窓から見下ろすと、靖国通りを行き交う車が目に見えて少なくなっていた。地下鉄の出口から日本武道館や千鳥ヶ淵方向へと続く桜並木の周辺は、例年なら多くの花見客でごった返す。だが、歩道には数えるほどしか人がいない。
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小説・Exit 第46回「再生への道筋」
「今日明日に弾ける問題ではありませんが、史上最悪の事態が迫っているのは確かです」スコッチのストレートを2杯飲んだ直後で、江沢の頬がほんのり赤らみ始めた。
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小説・Exit 第45回「信認」
「形骸化したとはいえ、政治からの独立は絶対に侵してはいけない一線です。それも一国の金融政策を決める採決ですよ」膝に置いた拳を握りしめ、池内は言った。「審議委員になった直後、私もそんな意気込みを持っていた。当時は緑川総裁よ…
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小説・Exit 第44回「告白」
南雲と会った翌日の夕方、池内はガラス張り20階建ての真新しい校舎前に立った。都心の広大な敷地には、歴史的建造物に指定された大講堂や煉瓦造りの図書館のほか、明治維新を経て、大学を創立した人物の銅像がある。
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小説・Exit 第43回「復活」
「クーデター計画はどこまで進んでいるのですか?」池内は切り出した。「なぜ、池内さんがそのことを?」南雲の声が微かに震えていた。「信じてもらえるかどうか不安ですが」池内は週刊新時代の堀田の存在を明かした。
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小説・Exit 第42回「待ち伏せ」
〈古賀さん、恩に着ると磯田が申しておりました〉「たまたま情報が入っただけです。大臣によろしくお伝えください」〈別の秘書が役所や関係方面に電話を入れております。これから磯田は赤間日銀総裁と緊急協議を始めるようです〉電話口の…
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小説・Exit 第41回「緊急声明」
九段下の編集部でメモを整理していると、池内のスマホが震え、メッセージの着信を報せた。画面には丸顔で無精髭のアイコンがある。堀田からだ。〈なにか成果はあったのか?〉〈特段報告するような成果はありません。お加減はいかがですか…
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小説・Exit 第40回「感染拡大」
「おまえ、チョコ何個もらった?」「会社の受付のおばちゃんと居酒屋の女将、計2個です」「お互い本命チョコはなしか。まあ、こんな生活してりゃ、当たり前か」堀田がミニバンのハンドルに体を預け、ため息を吐いた。
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小説・Exit 第39回「怒声」
古賀がステンレス製のモダンなドアをノックすると、中から朗らかな声が響いた。「どうぞ、お入りください」古賀はドアを押し開け、個室に足を踏み入れた。執務机で英字紙を読んでいた南雲が立ち上がり、古賀を応接のソファへと誘導した。
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小説・Exit 第38回「柔らかな手」
「それでは、ごゆっくり」水割りセットを池内の目の前に置いたあと、男性スタッフが頭を下げ、厨房に消えた。「お作りしますね」綺麗に磨き上げられたグラスを手元に引き寄せ、池内は古賀に言った。「薄めでお願いします」
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小説・Exit 第37回「クーデターの気配」
〈東京大学経済学部卒業後、米ハーバード大学大学院に留学……〉磯田から手渡された資料を古賀は凝視した。新たな日銀副総裁候補として検討が始まっているのは、リフレ派としてかねてから知られた2人の経済学者だった。
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小説・Exit 第36回「共闘」
「ちょっと、離してくださいよ」池内は胸元にある堀田の手首をつかんだ。「だから、その話を誰に聞いたんだよ?」堀田のこめかみに幾筋も血管が浮き出し、両目が充血していた。大きな丸顔がさらに池内の鼻先に近づき、ニンニクダレの臭い…
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小説・Exit 第35回「巨大リスク」
「池内さん、今回の雪村会見には出席されたんですよね?」「ええ、それがなにか?」「会見の要旨をあとでチェックしたのですが、ソダーバーグ通信の記者が面白い質問をしていましたね」「あの女性記者ですね……」〈日銀ではダイバーシテ…
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小説・Exit 第34回「後任人事」
「宮田さんはお元気でしたか?」大手町中心部にある最新のビジネスタワー15階。日当たりの良い部屋で、日銀OBの南雲が朗らかに笑った。
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小説・Exit 第33回「新型肺炎」
「ちょっと失礼します」対面に座る南雲に断り、古賀はスマホを取り上げた。「お急ぎの要件でしたら、私はこれで」南雲が腰を浮かしかけるが、古賀は首を振った。
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小説・Exit 第32回「策略」
大きなスクリーンに9人の顔写真が映る。伸縮型のボールペンで富樫が再度顔写真を指した。次いで、富樫が四分割された表の中心、上下を表すラインに合わせ、ボールペンを添えた。
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全8回