この記事は日経ビジネス電子版に『なぜ「日立ショック」がKAISHA再興に重要なのか』(2021年3月17日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』7月19日号に掲載するものです。

日立製作所の変革を、日本にとって大きな出来事と位置づけるウリケ・シェーデ教授。大企業の「大転換」は、ニッポンの「KAISHA再興」実現に向けた明るい材料だ。

ウリケ・シェーデ[Ulrike Schaede]
米カリフォルニア大学サンディエゴ校 グローバル政策・戦略大学院教授
9年以上の在日経験があり、日本の経済、企業経営論、企業戦略などが研究領域。サンディエゴと日本をつなぐ研究所「Japan Forum for Innovation and Technology (JFIT)」ディレクター。2021年4月、本連載の原案になった著書『The Business Reinvention of Japan』(Stanford University Press)で第37回大平正芳記念賞受賞。ドイツ出身。

 今回は、日立製作所の企業変革が、日本にとって「日立ショック」といえるほど重要な「大転換」であることを伝えたい。それは、次の3つの理由からだ。

①「選択と集中」バージョン2.0の神髄。

 日立は、電機メーカーからインフラ・データソリューション会社への大転換を含む「KAISHA再興」の好例。

②「言い訳」の終焉(しゅうえん)。

 日立の事例は、日本国内の規制や無言の圧力、あるいは限られた条件下でも、抜本的な「大転換」が可能であることを示す。他の大企業が挙げる様々な「変われない理由」が、言い訳でしかないことがはっきり分かる。実際他の大企業も、デジタルトランスフォーメーション(DX)で競争するため、自社の再ポジショニングをし始めている。

③企業資産を取引する国内市場の創設。

 日立の事業売却やカーブアウト(事業分割)で、国内のプライベート・エクイティ(PE)市場が急成長した。PEは、非上場企業や事業などの資本である。その市場で企業資産や事業の売買が容易になり、日本企業が「KAISHA再興」を検討できる環境が整った。

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