日本が破壊的なイノベーションの力に乏しいのは、文化が原因なのか。米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院のジャクソン・ルー氏の分析で、興味深い傾向が分かった。

ジャクソン・ルー[Jackson Lu]
米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院助教授
米ウィリアムズ大学を首席で卒業。2010年、早稲田大学国際教養学部に半年留学、その後米コロンビア大学経営大学院で組織行動論の博士号(Ph.D.)を取得、18年から現職。文化とグローバリゼーションが専門。19年、米Poets and Quants誌「40歳以下のベストビジネススクール教授」に選出された。

 文化が組織にもたらす影響を心理学的・統計的に分析している、米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院のジャクソン・ルー助教授。前回は、東アジア系の人間が米国系組織で直面する出世の壁「竹の天井」について、南アジア系との統計的な比較などから論じた。

 今回は、コロナ禍で必需品になった「マスク」と文化の関係を分析し、イノベーションにも関係があることを突き止めた研究について論じる。この研究はこのほど、米科学アカデミー紀要に掲載された。

 「今回の研究で、コロナ禍にマスクを着けるか着けないかは、個人主義か集団主義かに大きく依存するということを、個人レベル・地域レベル・国レベルで統計的につまびらかにできた。世界中で日常的になったマスクだが、もともと日本人はコロナ禍前からマスクをよく着けていた。軽い風邪を引いただけでもマスクを着用する習慣が見られた。この、他の人に迷惑をかけないよう行動する文化は、集団主義の大きな特徴だ。

社会の利便か自分の便利か

 一方、米国は個人主義的で、『マスクするかどうかは自分の自由』『自分の命は自分のもの』と考える人が多い傾向がある。私たちは、感染状況においてこれほど如実に違いがあるのは、本質的に、文化による(マスクを着ける、着けないといった)対処方法の違いではないかと考え、分析してみた」

 分析の材料としたのは米国50州だ。まず各州の集団主義(個人主義)の度合いを定量化し、マスクの着用率との相関関係を調べたという。

 「個人主義や集団主義については、これまでも文化心理学者たちによって数十年にわたり研究が蓄積されてきた。が、コロナ禍のような生命に関わる状況にこうした文化がどう影響するかについて、データに基づき分析して議論するものは、今回が初めてだ。具体的には今回は、米国50州の3141郡のデータを使い、分析した。

 面白いことに、米国の中でも、個人主義の度合いにはかなりの温度差があった。そして、集団主義的な州のほうが、よりマスク利用度が高いことが分かった。念のため、米国50州の1万6737人の、別のデータでも同じ分析をし、さらに視点を大きくし、29カ国の36万7109人のデータでも同様の分析をしたが、結論は変わらなかった」

集団主義的な地域ほどマスクを着用
●29カ国・地域の回答者によるマスク着用の分布
<span class="fontSizeL">集団主義的な地域ほどマスクを着用</span><br><span class="fontSizeS">●29カ国・地域の回答者によるマスク着用の分布</span>
注:0=全くマスクを使わない ~ 4=常時マスク着用 で選択した回答の平均値
出所:ジャクソン・ルー氏らの共著論文「Collectivism predicts mask use during COVID-19」(米科学アカデミー紀要、2021)
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 最も集団主義的な米国の州はどこだったのだろうか。

 「米国で最も集団主義的なのは、ハワイ州だった。東アジア人が大勢住んでいることもあり、納得感があると思う。ちなみに、最も個人主義的だったのはノースダコタ州だった。

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