世界的に、かつてなく一部の企業への「偏在」が進んでいる企業の利益。ハーマン・サイモン氏は、その背景には、「シェア至上主義」に固執する経営があるという。

ハーマン・サイモン[Hermann Simon]
経営学者、サイモン・クチャー&パートナーズ名誉会長
経済学と経営学を学び、独ボン大学で博士号取得。独マインツ大学とビーレフェルト大学などで教授を務めた。1985年、独コンサルティング会社サイモン・クチャー&パートナーズを共同創業。ドイツ語圏ではピーター・ドラッカーに次いで最も影響力のある経営思想家とされる。著書に『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』(中央経済社)、『価格の掟』(中央経済社)など。

 前回の本連載では、ハーマン・サイモン氏が注目する、世界の企業の利益額のランキングを紹介した。2018年のデータでは、世界で最も利益が多い企業はサウジアラビアのサウジアラムコだった。ランキングではエネルギー系の企業以外に銀行が目立ったほか、特に米国と中国の銀行の利益額の多さは目を見張るものがあった。また、インターネット系企業ももちろん上位だ。

 「これほど一部の企業に世界の利益が集中するのは、これまでなかったことだろう。その結果、株式市場では時価総額が異常に高い企業が出現している。例えば米アップルの時価総額は、ドイツ株価指数(DAX)に含まれる企業の時価総額の合計より大きい。DAXは独フランクフルト証券取引所に上場する主要30銘柄で構成されている株価指数だ。ダイムラー、BMW、ドイツ銀行、バイエルなどドイツの有力企業を含む30社の価値の合計が、アップル1社にかなわない。

日本企業10社を丸ごと買収

 時価総額はその企業の購買力を意味する。自社株を元手に他の企業を買収できるからだ。米フェイスブック、グーグルとアップルが一緒になったら日本企業10~20社を丸ごと買収だってできるだろう。健全な状況とは言えないが、現実だ」

 サイモン氏は、こうした極端な高収益企業の特徴は2つあると考える。顧客獲得コストが低いことと、資本をあまり必要としないビジネスモデルであることだ。

 「例えばフェイスブックが顧客を1人増やすのにかかるコストはほとんどない。顧客が100万人増えれば利益は大幅に増えるが、コストはほぼ増えない。それに対し、トヨタ自動車は、自動車を1台余計に売ればそれに伴う様々な経費が発生する。

 また、高収益企業のビジネスモデルの多くは、資本がさほど要らない。トヨタが生産台数を増やすために工場を造るとなれば、数十億ドル規模の投資が必要だ。だがインターネット企業のサーバー増強にはそれほど巨額の投資はかからない。その中で物流拠点が必要な米アマゾン・ドット・コムは、収益性が小売企業と同様だが、純粋なデジタル企業は利益率が高い。アップルは純粋なデジタル企業ではないが高収益だ。

 さらに税金の問題もこうした企業の収益力を高める。デジタル製品は世界中のどこにでも配信できる。アイルランドかルクセンブルクにホストを設ければ、ほとんど税金を払わずに済む。将来的には課税される方向だろうが、当分先のことになる」

 彼らの天下はいつまで続くのか。例えば1960~70年代、現在のアップル並みの強さを誇った米IBMは、技術革新が進む中、企業の世代交代の波にのまれた。同じことがアップルにも起きることはないのか。

 「より良い検索エンジンの登場や量子コンピューターの利用促進で、そうなる可能性はある。とりわけ人工知能の分野などではデータ保護規制がほとんどない中国が優勢になるかもしれない。欧米と日本はデータ保護の規則がたくさんあり、それが影響する恐れがある。

 だがそれでも、現在のインターネット系の巨大企業は資金がとてつもなく潤沢で、そうした新技術にも既に巨額の投資をしている。その状況を踏まえれば、彼らの勢いはIBMのようにそう簡単には衰えない。当局も、『利益が一部企業に極端に集中するのは長期的には容認できない』との立場から、企業を分割する必要性などを検討しているが、簡単な解決策はない」

続きを読む 2/2 シェア主義が利益を下げる
日経ビジネス2021年5月3日号 74~75ページより目次

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