野中郁次郎一橋大学名誉教授が、組織論の観点からその知的機動力の高さに最も注目してきたのが米海兵隊だ。イノベーティブな組織を作るうえで、大きなヒントになるという。

野中郁次郎[Ikujiro Nonaka]
一橋大学名誉教授
1935年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業。富士電機製造(現富士電機)を経て、67年に米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院に進学、72年博士課程修了。82年に一橋大学産業経営研究施設教授。「ナレッジマネジメント」「SECIモデル」といった理論を広めた。富士通や三井物産の社外取締役を歴任。2017年にはカリフォルニア大学バークレー校最高賞の生涯功労賞を授与された。(写真=吉成 大輔)

 アイリスオーヤマやエーザイなどの事例を活用し、野中理論の応用例を見てきた。今回は、米国の海兵隊の組織構造や人づくりの仕組みを見ながら、「知的機動力」について考察していく。

 「長年、数え切れないほどの組織を研究してきたが、米海兵隊ほど興味深い組織に出合ったことがない。きっかけは1984年に出版した『失敗の本質』(ダイヤモンド社)で、なぜ日本は先の大戦で負けたのかを組織論的に明らかにしたことだ。日本軍を破った米軍は、『未来の環境に対して自らの目標と構造を主体的に変えることができる組織』だったが、日本軍は過去の成功体験に過剰適応し、『自己革新組織』たり得なかった。先の戦争では、日本軍は『海から陸へ』という海兵隊の作戦に対応できずに負けた。

 海兵隊の画期的な作戦を可能にしたのは、彼らが自己革新できる組織だからで、原動力は『知的機動力』だ。知的機動力とは、実践知をダイナミックに創造、共有、錬磨する組織能力だ。それは、海兵隊は創設以来、ずっと自らの存在意義を問われ続けてきたことが大きい」

存在意義への問いが進化生む

 米海兵隊は、米国独立戦争の時、英国の軍事組織を手本に設立されたが、鋼鉄艦の時代になると艦上勤務の役割が低下し、海兵隊不要論が浮上した。

 しかし、海兵隊は陸軍に吸収すべきとする圧力が強まる中、1930年代ごろまで、諸外国での紛争収拾と、前進基地の防御という任務を自ら築き上げた。そして、対日戦争を予見した「海から陸へ」の「水陸両用作戦」を提唱した。

 原爆が開発されると再び不要論が浮上するも、今度は輸送ヘリコプターを世界に先駆けて導入し、「水陸に加えた空陸統合作戦」を編み出して自らを「緊急展開部隊」として発展させた。

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