マーケティングの父、フィリップ・コトラー教授。最終回は、買い過ぎ・作り過ぎの世の中を変える方法を考察する。キーワードは「GDP信奉からの脱却」だ。

フィリップ・コトラー[Philip Kotler]
米ノースウェスタン大学経営大学院名誉教授
1931年生まれ。米マサチューセッツ工科大学で経済学の博士号を取得(Ph.D.)、その後米ノースウェスタン大学経営大学院の教授に就任。「近代マーケティングの父」と称される。教科書として版を重ねる『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』(丸善出版)ほか、著書多数。

 いよいよ最終回となったマーケティングの父、米ノースウェスタン大学経営大学院のフィリップ・コトラー教授の「新常態のマーケティング教室」。今回はシリーズの中でたびたび話題にしてきた、新しい資本主義の在り方についてさらに掘り下げ、新時代のマーケティングの姿を探っていく。

まずは税制で格差を解消する

 「資本主義の大きな問題の一つは、貧富の格差がすさまじいことだ。所得格差問題に立ち向かう重要な手段は税制である。富裕層はもっと高い税金を払う必要がある。低所得層に高い税金は払えないが、中間層の分は少しだけ高くできる。我々は富裕層の富が分け与えられることに感謝する一方、政府が税金を爆弾や戦闘機の製造に使わない証明も求めるべきだ。

 もし裕福な人が(高い税率で)課税されそれで戦艦を造るのなら、私は納税したくないので国を去るだろう。しかし税金を、大学に行く資金のない学生を支援するためとか、保健福祉の向上のために使うというなら話は別だ。いわゆる億万長者も高額の税金を払うことに、今よりはちゅうちょしないはずだ。

 日本人は、こうした哲学に共感できる人々だと思っている。学校に通えるだけの素質がある人は、学校に行くべきだ。また、病気の人を、(経済的に)病院に行けないというだけの理由で、苦しみ続けさせてはいけない」

 税金の使い方の工夫で格差拡大を食い止めよう、と教育や医療への再分配を求めるコトラー教授。現在の資本主義の在り方にも厳しい視線を向ける。

 「適切な所得再分配をするうえで、ミルトン・フリードマンが掲げた(株主第一の)資本主義には、致命的な欠陥がある。彼は、雇用を増やせば人々がより幸せになれるのかどうかについて、全く考察していないからだ。

 そもそも幸福を測るものさしがない。現在、GDP(国内総生産)が経済の指標だが、これは産出の増減の指標であるにすぎない。確かにGDP成長率の停滞は人々の怒りをくすぶらせているようにも見えるが、だからといって、皆が一生懸命働いてGDPが増えれば人が幸せになるとは思えない。たばこや銃のような筋の悪い製品での成長は、幸福度をむしろ引き下げるのではないのか」

 幸福度を下げるのは筋の悪い製品だけでない。筋の悪い売り方もある。

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