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移民に対する、受け入れ国の住民の反発が世界中で問題になり、政治利用にもつながっている。数々の一般論に対し、ノーベル賞経済学者のアビジット・バナジー教授が、経済学界の有力な研究に基づいて反論する。

アビジット・バナジー[Abhijit Banerjee]
米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部教授
(写真=Bryce Vickmark)
1961年生まれ。インドのコルカタ大学卒、ジャワハラール・ネルー大学修士課程修了。88年に米ハーバード大学で経済学の博士号(Ph.D.)を取得。2019年、マイケル・クレマー米ハーバード大学経済学部教授、配偶者でもあるエステル・デュフロMIT経済学部教授らとノーベル経済学賞を共同受賞。専門は開発経済学と経済理論。近著に共著『絶望を希望に変える経済学』(日本経済新聞出版)。

 欧米では、移民が重大な問題になっている。日本でも海外からの労働者を移民として本格的に受け入れるかどうかについては、長年議論になっているが、世論の根強い反対も見受けられる。

 欧米において反発の根元にあるのは、「仕事を奪う」「移民の多くは働かずに国に世話をしてもらっている」という「思い込み」。これが、2019年にノーベル経済学賞を受賞した米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部のアビジット・バナジー教授の考えだ。

移民禁じた法律の結果

 「移民については、マイナスの影響が過剰に推測されていて、プラスの影響は、知られなさ過ぎている。

 とりわけメキシコから来る移民のような低スキルな移民から、米国がマイナスの影響を受けるのではないかといった研究は非常に盛んである。彼らがより安い賃金で仕事を請け負う結果として、米国民全体の賃金を押し下げるのではないかという研究だ。

 だが、米国以外でも多くの国で進められているこの種の研究では、国民の賃金にマイナス影響は、たとえあるとしても、判別不可能なほど小さいという結果を既に打ち出している。少なくともはっきりとマイナスの影響が生じるとの報告はない。しかし多くの人は、移民が増えると聞くと、反射的に自分たちにとってマイナスだと推測してしまうようである」