2019年、ランダム化比較実験(RCT)を使った研究で世界の貧困緩和に貢献したとして、ノーベル経済学賞を受賞したアビジット・バナジー米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授。経済成長やイノベーションなどについて、データ分析に基づく知見から解説する。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部教授

2019年にノーベル経済学賞を共同受賞したアビジット・バナジー米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授。共著『絶望を希望に変える経済学』(日本経済新聞出版)では、経済成長や移民の影響、イノベーションなどについて、最新の経済学の成果に基づいた分析や解説を展開した。バナジー教授に、豊かになった国の経済の在り方を聞く。
バナジー教授は、日本のような既に豊かな国が再び経済成長するための、はっきりした処方箋はないという。
「経済学者が何世代にもわたり努力してきたにもかかわらず、経済成長を促すメカニズムはまだ分かっていない。とりわけ(先進国のような)富裕国で再び成長率が上向きになるのか、どうすれば上向くのか、ということははっきり言って謎である。経済成長を計測するのは難しいが、成長をけん引する要因を特定するのはもっと難しい。
だからといってもう成長しないわけではない。多くの子供は1m70cmとか80cmまで成長して身長の伸びが止まるが、さらに伸びる子供もいる。同じようなことが経済成長にもいえるはずだ。日本も成長するかもしれない。ただ、どうすればもっと速く成長するのか、コントロール方法が分からない。無理にコントロールしようとすれば、弊害が生まれることも多い」
失敗例は1990年代前半の日本
経済成長を戦略的に実現しようとした失敗例が、過去の日本だという。
「成長スピードを変えようとした優れた歴史上の失敗例がある。1990年代前半の日本だ。当時、日本の成長が停滞し大変注目された。国をもう一度成長させようとする方法が提示された。
しかし、どれもうまくいかなかった。成長スピードを変えられない時、それを信じたくない国がすることの良い例だ。成長率に働きかけようとしても、多くのことを同時にはできないし、たくさんのことをしたら結局、公的債務が爆発的に増える。しかも、そこまでやっても成長率は変わらない」
安倍前政権は成長戦略を掲げたが、多くの識者が不発だったと指摘する。
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